■ ■ ■

中学生の頃わたしが好きだった、サポートしたいと思った彼らのプレーが、目の前に広がっている。

自由に、純粋に、バスケを楽しむ姿。

あのとき以来、見ることのなかった光景に、思わず涙が溢れる。
隣に座っているさつきもそれは同じようで、頬が涙で濡れていた。さつきは青峰のこともあるから余計にそうなるんだろう。二人はなんだかんだで仲良しなんだ。青峰が心配、そんな理由で好きな人と同じ高校を諦めるくらいだから。

中学のとき、さつきと二人で見送った仲の良い彼らの後ろ姿に、今の姿が重なる。

あのときみたいに、またみんなで楽しい時間を過ごせないかなと思っていた。でもそれは叶わないと諦めていた。それほどまでに彼らは一人一人変わってしまっていた。

よかった。 純粋にそう思った。

チーム編成を変えながら何試合目かの試合中、さつきと二人目を合わせていたら、ボールがこちらにコロコロと転がってきた。 こんな転がり方をしてくるなんて珍しい。
目線を上にあげると、そこには赤司くんと緑間。

「選手交代だ。みょうじ、桃井」
「え…?」

「どうぞ。桃井さん、みょうじさん」
「なまえっち、桃っちはやくはやく!」
「マネージャーだからって手加減しねぇぞ」

黒子くん、黄瀬、青峰が呼んでいる。まさかわたしたちも混ぜてくれるというのか。

「…行ってくるのだよ、みょうじ」
『…うん!』

緑間に頭をポンとされて、みんなの方へ駆け出す。こんなにワクワクするなんて、いつぶりだろう。

「オイ緑間ぁ!お前もかよ!」
「うるさいのだよ青峰」
「ずるいっス!」

▼▲▼

そしてそのまま、火神くんの家で行われるという誕生日会に誘ってもらって行ったわけだが。

一年生だけと聞いていたその会には、誠凛の二年生、陽泉の氷室さん、そしてなぜか高尾もいた。

『なんで高尾もいんの?』
「あれ?なまえ…ハハッ、こりゃいーや!カオス」

キセキの世代勢揃いのこの光景に、そう言うのも納得だ。

「なまえっち何食べる?」
『え?えーと、からあげもらおうかな』
「了解っス」

席についてからは隣に座った黄瀬が、自分でとれるって言ってるのに「いいからいいから」と言って食べ物を取ってくれるのでお言葉に甘えている。「食べさせてあげようか?」というお誘いは丁重にお断りしておいた。

「なまえっち何飲んでるの?」
『なんかそこにあった炭酸』
「おいしい?」
『まあまあ』
「一口ちょうだい!」

そんなに気になるかな?と思いつつも飲みたいと言っているので自分のコップを差し出す。彼はそれを受け取って一口飲み、満足そうにコップを返してくれた。

「ありがと」
『おいしい?』
「まあ…別の意味で」
『は?』

▼▲▼

たくさん食べて飲んで(ジュースだけど)騒いで、黒子くんの誕生日会は大いに盛り上がってお開きとなった。すっかり夜も更けて外は真っ暗だ。

帰り道が同じ方向同士で何人かまとまって帰ることになったが、わたしは途中から一人だけになる。まあそれはいつもだから気にならないんだけど、送ると言ってきかない人がいたので素直にそれに甘えることにした。

「こうやって並んで帰るのも久しぶりだね」
『…そうだね』

彼は中学時代、何度もわたしを心配して送ってくれた。何度も断ったのに、なかなかこの人は頑固なんだ。それを知っていたから、今回も素直にそれに甘えたんだけど。

『変わらないね』
「?何がだい?」
『頑固なところ』
「…俺をそんな風に言うのはみょうじくらいだよ」
『わあ、わたししか知らない赤司くんってことかな』
「そういうことにしておいていいよ」
『…なんかバカにされてるなあ』

赤司くんと話しているとすごく落ち着く。話しやすいというか、こちらのペースに合わせてくれるんだ。

『今日、みんなに会えてよかった』
「…そうだね」
『わざわざ来てくれてありがとうね』
「いや、俺も楽しかったから。それに」

わたしの数歩先を歩いていた赤司くんが突然止まって、わたしの方を振り返る。

身長、伸びたなあ。
またかっこよくなったなあ。

「…みょうじに会いたかった」

そんなことをぼーっと考えていたわたしに、爆弾のような言葉をかけたのは紛れもなく赤司くんで。
頬に熱が集まってくる。なんでこの人はこんなセリフをさらりと言ってしまえるんだろう。

『うぅ…そういうの照れるからやめて…』

赤くなった顔を見られたくなくて、両手で顔を覆う。それが気に入らなかったのか、赤司くんの手がわたしの両手首に触れてそっと顔から離していく。

「真っ赤」
『誰のせいだと…』
「俺?」
『なんか今日の赤司くんいつもより意地悪だ…』
「そんなつもりはないんだけどな」

赤司くんに掴まれた手首は解放されることなく引っ張られて、そのまま腕の中に閉じ込められる。

「…会えてよかった」
『ん…。わたしも、…会いたかった』

赤司くんに、会いたかったよ。

暖かくて、優しくて、でも頑固な、そんなあなたに、会いたくてたまらなかった。

数年ぶりに会えた赤司くんに、会えた嬉しさをぶつけるように彼の身体に腕を回して、ぎゅうっと抱きついた。

明日からまた離れてしまうから、今だけは甘えさせてほしい。
おかえりなさい

title by コペンハーゲンの庭で




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