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…えーっと…。さすがにもうないと思ってたワケですよ。
思ってたのに、わたしはなぜまたここにいるんだろう。
「…みょうじじゃないか」
『は、はは…久しぶりだね…』
赤司くん。
京都にいる彼とは、ウィンターカップ、そしてこの前の黒子くんの誕生日以来だ。
「自室で寝ていたはずなんだが…気づいたらここにいてね。みょうじもかい?」
『うん全く同じ』
「そうか…それにしてもおかしな部屋だな。夢にしては現実味がありすぎる」
赤司くんが部屋をぐるっと見回す。
だって夢じゃないから。
そんなことを言えるはずもなく、ただただじっとしていることしかできない。
この部屋のおかしさを身をもって知っているわたしとしてはもう気が気じゃない。
そりゃあもう今回の条件が変なのじゃないことを本当に祈っている。
だって赤司くん意味わかんないくらいモテるんだよ。モデルの黄瀬と同じか、それ以上に。
そんな人と今までと同じようなことができるだろうか…いやむしろわたしがお断りされるんだ。
「みょうじ」
『はっ…ハイ』
「お前はここに来たことがあるんだろう?」
赤司くんの、色の揃った二つの目が、じっとこちらを見ていた。
絶対分かるだろうなあとは思っていたけど、そんなに分かりやすかったかな…。
赤司くん相手に言い訳していても意味がないのは中学時代散々重い知っているので、正直に答える。
『まあ…うん』
「説明してもらおうかな」
わたしは何回か来たことがあり、条件をクリアすると絶対に出られるということを話した。
誰と来たか、何をしたか、まではなかなか話しづらいから、聞かれたら答えよう。
「そうか…不思議な部屋だな。何が目的なのか皆目見当もつかないよ」
『そうだね…』
「とにかく、この部屋から出なければならない。条件の書いた紙がどこかにあるんだろう?」
赤司くんってどんなときに慌てるんだろう。こんなときでもすごく落ち着いてる。さすが一年でキャプテンしてるだけあるなあ。
『…うん。いつもこのあたりだった気がするよ』
だいたいいつも同じようなところにあるので、その辺を探す。
あれ、前はなかったデジタル時計みたいなのが置いてある。
「これかな?」
『あ、それだ』
これもいつもと同じもの。書かれてる内容はおそらく、これまでとは違うだろうけど。
しばらくじっとソレを見ていた赤司くんがようやく口を開く。
「…残念だが俺には何をすればいいか分からない条件だ」
赤司くんで分からないなんて、ちょっとマズイんじゃないか。
『え…なんて書いてあるの?』
いい
見ればわかるよ、そう言って渡された紙に視線を落とす。
"あなたがこの部屋を出たすべての条件をすると出られます!"
「俺はこの部屋に来るのは初めてだから分からない。みょうじ、君しか知らないと思うが」
今までの中でいちばんしんどい条件キタコレ。
「どんな条件だったか知らないが食べ物も飲み物もないこの部屋からは早急に出たい。みょうじ、どんなことをして出た?」
『え、と…』
うん、冷静すぎる赤司くんが今はものすごく怖い。
*
「……つまり、緑間とはキスをして、青峰とは10分間イチャイチャして、黄瀬とキスマークを付けあい、高尾くんとはディープキスをしたと?」
淡々と言われるとなんか…もうほんと死にたくなってくる。
しかも赤司くんなんか怖いんですけど。ちょっと怒ってる気がするんだけど。
「…ハァ」
『…ごめんなさい』
「何故謝る」
『…なんでだろ』
「みょうじは何も悪くないだろう」
『でも赤司くんに迷惑かけてるし…』
「みょうじのせいではないよ」
「いや、俺の態度がそうしてしまったのか。すまない」
『えっ大丈夫だよ』
「俺の知らない間にいろいろされていたのというが少々気になってね」
…えーと、なんか赤司くんが近づいてきてるけど、どうしよう。
そういえば洛山の制服着てる赤司くん初めてみたなあ。この制服かっこいい。赤司くんにすごく似合ってる。
ボーッとそんなことを考えていたら、あっという間に目の前には赤司くん。
キセキの世代の中では小柄な赤司くんも、わたしから見るとだいぶ大きい。
「さあ、条件を一つ一つ潰していこうか」
あれ、今もとの赤司くんだよね?前の人格じゃないよね?なんか一瞬そんな気がしたんだけど気のせいかな…。
『え、と何から…』
「これかな」
赤司くんが両腕を広げて、ふわっとわたしを抱きしめた。
「10分間…だったかな」
『…あ、イチャイチャするってやつ?』
「そう」
なんか赤司くんすごいいい匂いするんだけど。ドキドキしてるんだけど、その落ち着いた和の匂いですごく安心する。
「みょうじ、顔上げて」
『…ん?』
そう言われて上を向くと、赤司くんの髪の毛がふわりと首筋に触れる。
「なるべく見えないところにつけるよ」
なんだか楽しそうに彼はそう言って、首筋をじっくり舐めながら、軽く吸い付いてくる。
『ひゃっ、…っん』
くすぐったいような、気持ちいいような、そんな感覚に襲われる。
しばらくしてつけ終わったのか、赤司くんは顔をあげてその勢いのまま、わたしの唇にもキスをした。
『ん…』
触れ合うだけのキスをして、今度はわたしの番と言うように唇を離す。
戸惑いながらも、首はさすがに短髪の彼はすぐに見えてしまうから、鎖骨のあたりに吸い付いた。
まだまだ慣れなくて、少し時間がかかってしまったけど、なんとかついた。
『…どうしたの?』
「…いや、こうされるのも悪くないと思ってね」
『そうかな、』
「なまえでよかったよ」
ドキッとした。
はじめて、彼に名前を呼ばれたから。
『…赤司くんそれはずるい』
「クスクス…何がかな?」
『わかってるくせに』
「赤くなるなまえがかわいらしくて、ついね」
タイマーが鳴った。どうやら10分経ったらしい。
「これで条件は3つクリアだね」
『あ、そっか…じゃああとひとつ…』
あれ、あと残ってるのって…
「さて、俺の気がすむまでさせてもらおうか」
気がついたら、唇には柔らかい感触があって。
先ほどのキスとは比べものにならないくらい、熱い、激しいキスだった。
「…っ、なまえ」
『ん、っは…』
さて、わたしはあとどのくらいでこの部屋を出られるのでしょうか。
でも、出ちゃったら京都にいる彼とはまたしばらく会えないから、もう少しこのままでいいかなあ。
〇〇しないと出られない部屋
all-Seijuro Akashi