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えーっと、ここは…。見覚えありまくりだよ…。

今日の部活も無事終わり、さあ帰ろうと思って部室の扉を開けたら、とても見覚えのある白い部屋が待ってました。
だけど、今回一緒にいるのは御幸ではなく、倉持だ。

「は?ここどこだよ」

うんうんわたしもそう思ってるよ。一回来たことはあるけれど、結局ここがどこなのか、誰がこんなことをしているのか、何の目的があるのかは全く分からない。
けど、分かっていることもある。おそらく前回と同じようにある条件をクリアすれば出られるはずだ。
一応扉を倉持が確認してるけど、そこはやっぱり固く閉ざされている。

『倉持、あれ』

部屋の上の方にある掲示板を指差す。やっぱりそこには前と同じことが書かれている。

"あることをしなければここから出られません。あることをすればすぐに出られます。"

「は?意味わかんねえ。つかコレ現実か?」
『さっき部室にいたときは現実だったけどなあ』

ピコンという音とともに、掲示板に新たな文章が示されていた。

"男が女のおでこと頬にキス"

「『………』」

「…この掲示板壊してもいいか?」
『…そうして欲しいのは山々だけど…』

多分壊したところで出られはしないだろう。御幸と閉じ込められたときはちゃんと条件クリアしたら出られたし。(まあ出たあとが気まずいったら…)

「つーかなまえ、お前なんでやけに落ち着いてんだ?」
『えっ』
「お前いつもだったらやたらテンパるだろ」
『い、いやあ内心すごく焦ってるよ』
「…お前そういうのほんとヘタだな」

なんでバレるんだろう…。そんなにわかりやすいかなわたし。いや、倉持が鋭すぎるんだ。

「見覚えあるんだろ?」
『…あるんだよなあ』
「ヒャハ、やっぱりな。いつだよ」
『えーっと一週間くらい前かな』
「最近じゃねーか。一人?なワケねえよなあの感じから」

あの感じ、とは掲示板に表示されている条件のことだろう。

「なあなまえ、誰と、どうやって出た?」

倉持が、それはそれは見たこともないような顔でそう言った。やっぱり倉持って元ヤンだ。こわい。
そんな倉持に対抗できるハズもなく、御幸と一緒だったこと、どうやって出たかを簡単に話した。

「チッあの野郎…」

「オイほんとにそれだけだな?」
『当たり前じゃん』
「…そのあと付き合ったとかじゃねえよな?」
『は!?そんなのあるワケないでしょ!」
「ならいいわ。いやよくねえけど。つかお前らなんか変だと思ってたらそういうことかよ」

お互いあれから気まずくて、いつも通りに話せてないのは倉持も察していたらしい。まあそういうの倉持鋭いしなあ…。

『ま、まあ条件クリアすれば出れるのは確定してるワケだし!早いとこやって出よう!』
「…オマエ何するか分かってんのか?」
『あ…』
「するのオマエじゃなくて俺なんだけど」

そうだった男が女のおでこと頬にキスだった。

『…ごめん倉持』
「なんで謝んだよ」
『いや、わたしでごめん』
「…お前ほんと馬鹿?」

鈍感っつーか。

「俺はお前でよかったわ」

「…ヒャハ、めっちゃ顔赤くなってんぞ」
『…うるさい。てかそういう倉持もだし』
「うるせえよ」

さっきまで割と距離を置いていたのが、どんどん近づいていく。

「…イヤだーとか言うなよ?」
『言わないよ。倉持だもん』

そのあと倉持の手がわたしの前髪に触れる。マメだらけの大きな、あったかい手。

倉持の顔が、少しずつ近づいてくる。
目をぎゅっと瞑ると、少しだけ香る汗の匂い。今日の練習もハードだったもんなあ。

ちゅ、と軽くわたしのおでこに唇が触れたあと、今度は頬にも同じ感触を感じた。
さっきまですごい顔してたくせに、こういうのは優しいんだもん。絶対さっきより顔赤くなってる。 そう思うくらいに、頬に熱が集中していた。

これで扉の鍵は開くはずなのに、その音がしない。不思議に思って掲示板の方を見たら、新たに条件が追加されていた。

"女が男に同じことをする。"

「ヒャハ、だってよ」
『うそお…』

倉持がとても愉快そうな顔でこちらを見てくる。こんなパターンあるんだ…。

『…じゃあ、その、いい?』
「ドーゾ」

にんまりと笑ってそう返す。何がそんなに嬉しいんだろう。

『…ちょっと屈んで』
「…おう」

野球部の中では小柄な方に入る倉持でも、さすがにわたしの身長では届かないので屈んでもらう。

『…じゃあ、失礼します』

倉持の肩を掴んで、剥き出しのおでこに軽く唇を押し当てる。
その勢いで頬にも軽く唇をあてて、ようやく倉持の肩を解放した。

そう、解放しようとしたのに、

『っ、え…』

離そうと浮かした腕を倉持に掴まれ、そのまま引っ張られて倉持の腕の中にすっぽり収まった。

「…ハーっやべェ」
『…なにが』
「…いろいろ」

さらにぎゅうぎゅうと強く抱きしめられる。
倉持って細身に見えるんだけど、やっぱり鍛えてるだけあってすごくゴツゴツしてる。

『…ちょっと、くるしいよ…』
「…ヒャハ、そうしてんだよ」

そのあと少しだけ力が緩んだあと、また倉持の顔が近づいてきて、今度はさっきと逆の頬にキスをされる。

『…ん、なに』
「べつに…」
『っひゃ…』

倉持の唇はだんだん下に降りてきて、首筋あたりにもキスをされる。 変な声出ちゃったじゃん。

『ちょ、倉持…っわたし汗かいて…っ』

る、というわたしの言葉なんて御構い無しにちゅ、ちゅ、とキスを繰り返す。

しばらくそうして、ようやく倉持が顔を上げた。
その目は試合のときのようなギラついた目をしていて、ちょっとびっくりした。

「…あーもうムリ」
『えっなにが…』

そう言ったあと、倉持の唇がわたしの唇のすぐ横に触れた。

「…ここまでにしとく」
『あ、うん…』

少し残念なような、気がしてならないのは気のせいだろうか。

その後扉の鍵は開いていて、無事外に出ることができた。
でも、そのあとしばらくはお互いやっぱり意識しちゃってギクシャクして、おまえら喧嘩したの?って周りに言われたのは仕方ないよね。

〇〇しないと出られない部屋
kiss kiss-Yoichi Kuramochi
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