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御幸が部誌を書いているわたしを送ってくれるということで、一緒に部室を出て帰ろうとしたら、そこは知らない部屋でした。

『えーっと…?あれ?部室の外ってこんなんだっけ?』
「いや絶対違うだろ」

部室の外は練習場が広がってるはずなのに、今は真っ白な部屋にいる。現実味のない部屋だ。
あるのはベッドとソファ、先ほど入ってきた扉、そして上の方には掲示板のようなモノ。

扉は無情にも閉じられ、ガチャという施錠音が聞こえてきた。

『…誘拐?』
「んなワケねえだろ。どうやって部室の外にこんなの作るんだよ」
『いやまあそうなんだけど…』

じゃあこの状況をどうやって説明するの…。
呆然と立ち尽くしていたところに、上の方にある掲示板から音がした。
そちらに目を向けると、信じられないことが書かれていた。

"あることをしないと出られない部屋です。 あることをすればすぐに出られます。"

『あることってなに…』

わたしの問いかけが聞こえていたかのように、掲示板の画面が変わった。

"10分間抱き合う"

「『………』」

誰と誰が?抱き合う?ぎゅーってするあれのこと?

「えーっと…とりあえずやる?」
『えっ何を?』
「いやだから抱き合うってヤツ」

御幸の言葉を聞いて自分でも分かるくらいに顔が赤くなっていくのを感じた。
だってそういうのしたことないんだもん。

「…ハーッ…」

御幸がため息をついている。わたし相手にしたくないんだろうな。
抱き合うなんて大したことないんだから早くしろよって思ってるかな。

「…なまえ」
『…なに』

「その顔、ヤバイから」
『…どうせブスですよ…」
「…や、その逆なんだけど…」

逆?
どういうことだろうと顔をあげようとしたら、

「まてまて」

頭を御幸の大きな手で抑えられてあげられなくなった。

『なにすんの』
「いやちょっとこのままでいてくんね?」
『意味わかんない』

かといって御幸の力に抵抗できるハズはないのでおとなしく従っておく。
しばらくしてからようやくわたしの頭は解放された。

「まあとにかく、10分我慢すれば出れるからがんばろーぜ」
『こういうときの10分て絶対長いんだよなあ…』

お互い覚悟を決めたようだ。よし、わたしも緊張してる場合じゃない。キャプテンをこんなところに閉じ込めてはおけない。

『…で、どうすんだっけ?』
「…雰囲気のクソもねえな」

まあいいや。
そう言いながら御幸はわたしの腕を引っ張って自分の方へと引き寄せた。

『っわ…』

一気に心拍数があがっていく。うわあコレちょっと恥ずかしい。

「オーイなまえ。抱き合うだからお前も腕回せ」
『あ、っうん…』

おずおずと腕を回していくけど、最後まで回りきらなかった。さすが鍛えてるなあ。 わたしと全然違うや。

「…お、カウントダウン始まった」

御幸が掲示板の方をみて言った。わたしからはなにも見えないのでそっちは御幸にお任せする。

『…あとどのくらい?』
「いやまだ1分も経ってねえけど」

がんばって緊張を顔に出さないようにしてるけど、どうしても顔が赤くなっていく。

この顔だけは見られたくない。その一心で御幸の胸に顔を埋める。
…筋肉だ。かたい。

「…!」

そのとき御幸がピクッと動いたけど、知らんぷり。

『…御幸の心臓の音が聞こえる』
「そりゃ生きてるからな」
『だいぶはやいよ』
「…この状況で落ち着いていられると思う?」
『さあ。御幸なら慣れっこじゃないの?』
「ンなワケねえだろ」

そう言ってさらにぎゅうっと強く抱きしめられた。

「てかお前も心臓すごいことなってるからな」
『…だってしょうがないじゃん。慣れてないんだもん』

練習のあとにシャワーを浴びたからか、御幸からはふわりとボディソープの匂いがする。
…そういえばわたしは練習のあとボディシートでは一応拭いたけど汗が…。

それを気にしてしまって御幸から少し離れようと身体が動いてしまっていた。

「…どうした?」
『あっ…いや、その…わたし練習のあとそのままだから汗とか…』

気になるというかなんというか。男の御幸がいい匂いするんだもんなんか悔しいじゃないか。

「?全然しねーけど」
『えっうそだ!わたし練習結構動いてたもん』
「まあそれはたしかに」

今はそんなに暑い季節ではないとはいえ、練習後の自主練まできっちり付き合ったから相当汗をかいてるはずだ。

『ひゃっ…』

御幸がいきなり首筋に顔を埋めてきたからびっくりして変な声が出てしまった。

「んーべつに、なんともねーけど」
『なんともないじゃなくて…てか嗅ぐのやめて…』
「…んー…」

御幸のツンツンした髪があたる。思ったよりも柔らかい髪をしてる。

『くすぐったいから早くどい…っ』

どいての一言は声にならなかった。なぜなら御幸がソコに唇をあてたからだ。

「…なまえ」
『っ、なに…』

「嫌だったら殴って」

そう言った瞬間、御幸はわたしの首筋を舌で舐め始めた。

『っ、ちょ…っ』

やがてそれは耳の方まであがってきて、舌を這わせる。
ときどき御幸の吐息が耳にダイレクトに響いてどうにかなりそうだった。

くすぐったくて恥ずかしくて、離れようともぞもぞ動こうとしても、力の差であっという間に抱きしめられて身動きをとれなくされる。
こんなの恥ずかしすぎてだめだ。心臓がいよいよおかしくなる。

『ん〜っ…っ、みゆき、時間は…っ』
「…ん?」

そのあとたしかに、ピーって音と扉の鍵が開く音が聞こえたんだけどなあ。

「…あと五分」

〇〇しないと出られない部屋
hug!-Kazuya Miyuki-
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