「おー」

そしていよいよお祭りの日。わりと規模の大きい会場には、たくさんの出店が並んでいる。夜には花火も打ち上げられるため、まだ夕方ではあるが人はたくさんいた。これなら知り合いに会うことはあんまりなさそうだ。

そして待ち合わせ10分前、早かったかなと思って待ち合わせ場所に向かうと、そこにはすでに倉持の姿があった。

『え、倉持早いね』
「いいだろべつに」
『ごめんね待った?』
「待ってねぇから気にすんな」

この前会ったときとはまた違う私服だ。どんな格好でもかっこよく見えちゃうんだから恋ってすごい。

わたしたちは花火の時間まで出店を楽しむことにした。たこやき、お好み焼き、イカ焼き、焼きそば、カキ氷…定番のものが並んでいる。

「何食う?」
『んーお腹空いてるから…あ、からあげ!』
「お前からあげとか家でも食えんだろ」
『いいじゃんおいしいし』

それからたこやき、カキ氷、りんご飴などを買って二人で食べた。からあげを分けてあげたら、倉持も自分で買ったたこやきを何個かわたしにくれたのだ。一つのものを二人で分け合って食べるってすごく恋人みたいで緊張した。

そろそろ花火の時間、ということで近くの神社に移動することにした。地元に近いということでなんとなく穴場は把握している。周りに人はいなくて、これなら落ち着いて見られそうだ。

『あと何分?』
「5分」
『じゃもうちょっとだね』

神社の階段に並んで座って空を見上げる。倉持との距離は、ほんのわずか。でも少し近づけば、くっつけそうな距離。…くっついて、みたいなあ。

「…なあ」
『ん?』
「なんで俺なんだよ」
『何が?』
「祭り」

花火まであと少しというところで、倉持がわたしに問いかける。なんとなく、倉持はわたしの気持ちには気づいているんだろうなと思っていた。だって彼は人の気持ちに敏感だから。

『分かんない?』
「…」

そうやって聞くということは、わたしはこの気持ちを伝えてもいいんだろうか。
目の前の空には、花火が上がっている。さっきまで暗くてよく見えなかった倉持の顔も、花火の灯りでぼんやりと見ることができる。

『…好き、です』

花火なんて上がらなければよかったのに。倉持の顔を見てしまったら、言わずにはいられなくなった。ああ、もう戻れない。

その間にも花火は上がり続ける。倉持の顔を見てられなくて、その背後に上がる花火をずっと見る。赤、青、ピンク、緑、黄色…いろんな色の花火。上がっては消えて上がっては消えて。わたしの想いも、消えちゃうのだろうか。

『っ、え…』

ぼーっと花火を見ていたら、腕をいきなり掴まれてあっという間に倉持の腕の中に倒れこんでしまった。

「ヒャハ、だよな」
『え、なにが…』
「お前俺のこと好きだもんなあ」
『う、そうだけど』
「分かりやすすぎんだよ」

自分でも少しだけ態度に出てるかなとは思ってたけど、ここまで確信されるまでだったとは。やっぱりお祭り誘った時点でもうバレてたんだろうなあ。
でもどうしてわたしは今倉持の腕の中にいるんだろう。

「俺もなんだけど」
『…え?』
「分かんだろ」

倉持は少しだけ腕の力を強くした。苦しいくらい強く抱きしめられる。

『分かんないよ』
「…ヒャハ、」

ねえ倉持、ちゃんと言葉で言って欲しいよ。そしたら、わたしももう一回伝えよう。

「好きだ」

花火はとっくに終わっていた。薄暗い神社で、わたしたちはしばらく抱きしめ合っていた。
倉持の体温が、とても心地よかった。
幸せ、だと思った。

あのね、きみがすき

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