春。わたしは中学2年目を迎えた。新しいクラスにみんなも、そしてもちろんわたしもそわそわしている。クラスには仲のいい子が数人いたり、同じ部活の子がいたりでなんとかやっていけそうだ。

『隣は倉持くんか、よろしくね』
「オゥ…」

それからまもなく、このクラスで初めての席替えが行われ、わたしは窓際の後ろから二番目をゲットすることができた。そしてその隣の席になったのが、倉持だった。

一年生の頃から何かと目立つ人で、去年は違うクラスで接点のないわたしでもなんとなく知っていた。
野球部、金髪、特徴的な笑い方。そして、喧嘩がめっぽう強いということ。

吹奏楽部に所属している地味なわたしとは、一生関わることのない人だと思っていた。
席替えをしたときの挨拶から、特に会話が生まれることもなく一週間が過ぎた頃、それは起こった。

『…やば』

昨日の夜準備したはずの、社会の教科書がない。何度も鞄と机の中を探してみるけど、見当たらない。授業はもう一分も経たないうちに始まってしまうから、他のクラスの子に借りに行くこともできない。
しかもこの社会の先生は、教科書をよく使うのでないと困るのだ。

『えと、倉持くん』

隣で同じく準備をしていた倉持くん…に見せてもらえるかなあ。無視されるかもしれないけど、わたしの隣は彼しかいないんだ。頼りにしてるぞ!

「…ンだよ」

心の中で勝手に頼りにしていた彼は、ちゃんと反応してくれた。まあ口は悪いけど。

『あの、教科書見せてくれない?』
「忘れたのかよ」
『うん。確かに入れたはずなんだよね、わたしの記憶では』
「ねぇってことはお前の記憶力どうなってんだよ」

これまた意外にも会話にのってくれた。
そして授業が始まってすぐ、早速教科書を使う場面になった。倉持くんがこちらに少し机を寄せてわたしにも見えるように教科書を置いてくれる。

優しい。

彼への印象が、そう変わった。

それからというものの、わたしは倉持くんに積極的に話しかけるようになった。

『ねえ倉持くん』
「ンだよ」
『野球部なんだよね?』
「オウ」
『ポジションどこ?あ、待って当てるから!』
「なんだよ…つか野球分かんのかよ」
『お兄ちゃん高校でやってるから!』
「へー」
『ピッチャーでもないし…キャッチャー…でもないなあ。内野の…セカンドかショートあたり?』
「…よく分かったな」
『お、正解!?』
「まあ、」
『どっちだろ、んーショートだ!』
「お前それカンだろ」
『カン!』
「…なんで当たるんだよ」
『女のカンってやつですな』
「うぜえ」

基本的にうざそうにはされるんだけど、無視はされないし、ちゃんと返してくれる。 特に野球の話題になるととても楽しそうだ。

しばらくそうして会話をしていたら、お前に倉持くんて言われるの気持ち悪いから呼び捨てにしてくれと言われたくらいには仲が良くなったと思う。

『今度試合いつー?』
「来週」
『どこでやるの?見に行っていい?』
「ハ、なんでくんだよ」
『え、倉持の勇姿を網膜に刻みに』
「…オマエさっきの授業の言葉使いてぇだけだろ」
『…まあそうなんだけど。純粋に見てみたいだけだよ。うちの野球部』

そう、わたしは野球部を見たいんだ。決して倉持を見たいわけじゃない。
決して。

ぼくはきみと春を待つ

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