「おーやってんな」
『おかえり』

放課後、図書室で受験勉強をしていると用事を済ませた倉持がやってきて目の前の席に座った。野球推薦である彼は部活に頻繁に顔を出して練習に参加することが多く、わたしはそれを図書室で勉強しながら待つというのが最近のパターンになってきている。

『どんな感じだった?』

倉持は今日推薦先の高校の見学に行っており、朝からいなくて少し寂しかったけど、帰ってきた倉持の表情はとても楽しそうだった。

「練習量がエグい」
『西東京の強豪でしょ?そりゃそうだ。寮は?綺麗だった?』
「そうでもねーかな。三人部屋なんだと」 『先輩たちと?』
「おう。三年から一年まで一人ずつらしい」
『うわぁ、部屋でも休めなそうだね…』
「ま、やるしかねぇな」

春からの生活が本当に楽しみなんだろう、ここ最近で一番生き生きしている。

『ね、明後日クリスマスじゃん』
「そーだな」
『でかけよ?』
「お前勉強は?」
『一日くらい大丈夫だよ。まずわたし倉持より頭いいし』
「テメ…」
『去年と同じ時間、同じ場所に集合ね』

あえてハッキリとしたことは言わなかった。だけど倉持はしっかり覚えていたようで、一切迷いを見せず「おう」と笑って返してくれた。

▼▲▼

去年と全く同じ時間、場所に着くとやっぱり倉持が先に来ていた。あれからもう一年経つなんて、本当にあっという間だった。

来年は、なんて。

そのことを思い浮かべてはいけない。楽しい思い出を作ると決めたのはわたしだ。

『倉持早いねぇ』
「お前が遅いだけだ」
『早く来たら怒るくせに』
「…うっせ」

どちらからともなく手を繋ぎ、去年と同じコースを辿る。ウィンドウショッピングをして、ご飯を食べて、暗くなってからイルミネーションを見る。

去年と違うのは、倉持の髪が推薦を受けるために黒くなったことだ。

『髪黒いの、やっと見慣れて来たかも』
「なんだかんだこっちのが楽だわ」
『染め直さなくていいもんね』
「高校も染めらんねーしなあ」
『高校球児が金髪はないわ』
「やんねーよ」

いつもと同じくだらない話。イルミネーションは去年と変わらずキラキラ輝いている。

去年はただ綺麗だな、くらいにしか思わなかったのに。

『…来年…』
「あ?」
『…なんでもないよ』

思うのは、やっぱり来年のこと。このイルミネーションは見ることができるけど、隣にいるこの人はいなくなる。

「…なまえ」
『…なによ』
「泣いてんのバレてっからな」
『泣いてないし』
「あーあー分かった分かった」

腕を引っ張られて人気のないところまで連れて来られて、ぎゅうっと痛いくらいに抱きしめられる。

「なまえ」
『ん…』
「落ち着いたか」
『…倉持が名前で呼ぶから落ち着かない』
「ヒャハ、慣れろ」
『いつも呼ばないクセに』

倉持は大事なときだけわたしを名前で呼ぶ。なんとなく、それが倉持なりのケジメなんだろうなと思っていた。だからわたしも同じようにしてきたんだ。

「お前も呼べよ」
『…洋一?』
「ん」

名前を呼ぶとすぐに唇に押し付けられた彼のそれ。何度も、何度も角度を変えながらキスは深くなっていく。

「…好きだ」
『…うん』

キスの合間に呟いた言葉は、触れたところからも痛いくらいに伝わってくる。来年も来ようね、なんてそんな約束はできない。それが寂しいのは、きっとわたしだけじゃないよね。

聖なる夜の行進

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