※静雄と臨也が仲良く(?)お昼ご飯を食べてます










「なにか大きな事件でも起こらないかなぁ」


隣に座っている全身黒尽くめの男が突然そう宣った。
池袋にあるファーストフード店の二階、窓際の席に座ってフライドポテトを摘みながら口にするにはあまりにも似つかわしくない台詞だ。

窓の外に目を向けると眼下には臨也が好きだと言っていた雑踏。
平日に昼間ともなれば当然だが制服をまとった学生の姿はない。もっとも私服というだけで自主休講という名目の元にふらついている者もいるだろうが。


「誰か目の前でトラックの前に飛び出したりしてくれないかなぁ」

「物騒な事言ってんじゃねぇよ」

ひんやりとした紙コップを片手で握って中身を吸い出そうとするが凍ったままのようで上手く飲むことが出来ない。このシェイクが飲めるようになるまでの間、臨也との会話に付き合ってやろうかと気まぐれにそう思った。


「だって退屈じゃない」

「お前が退屈ってことは平和ってことだろうがよ」

「ふはっ、平和とは大きく出たねぇ。たかだか俺一人が退屈してるだけで平和ってことはシズちゃんの世界がそれだけちっちゃいってことだ」


思った通りの言葉を吐き出すと臨也が噴き出す。こいつの言動はいちいち神経を逆なでしてくるがそれに反応していたら切りがない。
午後から仕事が入っていることを考えればここで臨也との喧嘩を始めることが得策でないことくらい解りきっていた。だからこそ彼の言葉に一切応えることなく短く返事をする。


「うぜぇ」

「だってそうでしょう?俺は表の仕事だってそれなりにこなしているわけだから常に情報屋として動いてるわけじゃないんだよねぇ。まぁこれはシズちゃんの言う『平和』っていうのが俺という人間が『人間観察』をやっていない間、という仮定に基づいた話なわけだけれど」


ね?と小首を傾げてみせるが同い年の男にそんな仕種をされたところでなんとも思わない、それどころかマイナス。けれど隣に座っている臨也は俺のことなど一切気にかけることなく相変わらずぺらぺらと喋り続けている。
よくもまぁそんな長台詞を噛まないで言えるもんだ。ただお世辞にも良いとは言えない出来の自分の頭ではこれだけの長台詞の中身を理解するどころか聞くことすらも出来ないわけだけれど。


「あー、もういいから黙ってこれ飲んでろ」


シェーキを飲むと喉が乾く。
長年の経験からそう学んだ俺はシェーキと共に小さめの飲み物を合わせて買うようにしていた。後で買い直せばいいかと思い、まだ口を付けていない紙カップを臨也に差し出す。


「え、くれるの?シズちゃんが優しいなんて珍しい。明日槍が降ったら間違いなくシズちゃんのせいだよ」

「黙って飲め」

「ふーん、まぁいいや。このジュースに罪はないからありがたく貰っておくよ」


少しだけつまらなさそうに臨也はジュースを受け取り、ストローを口元に運んで中身を吸い上げる。
半透明な柔らかいプラスティック製のそれは臨也がジュースを吸い上げることで色を変えた。臨也が息を継ぐために口を離せば重力に従ってストローの中の水位も下がる。唇に残ったジュースの滴を舐めとるためにちろちろと赤い舌が乾いた唇の上をなぞった。唾液に塗れた舌が通ったあとの唇は僅かに潤いを取り戻している。なぜだかわからないけれどその舌の紅さから目が離せない。


「あの、シズちゃん」

「なんだよ」


急に呼び掛けられて少し噎せながら返事をすると臨也が気まずそうに視線をさ迷わせた。


「そんなに見られたら恥ずかしいんだけど」

「へ、あっ、悪ぃ」


口元を凝視していたことを本人に指摘されて慌てて視線を外に戻す。熱くなった首筋を隣に座る男に悟られまいと肘を突いて誤魔化した。


『アイツの飲み方が妙にエロいんだよな、あのストローの先っぽ舐めるクセ、治らねぇのかな…』


一通り考えた俺の思考回路が出した結論は至極単純なものだった。
今晩は臨也の部屋に行こう。
そう決めて午後のシフトを確認するために俺は携帯を開いた。











[fin.]
2011.02.15.


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