あなたの一番になりたいのです(ygo/ヨハン )


 「新しい友達が出来たんだ。今では何でも話せる、一番の親友だぜ」

ストックホルム郊外にある小さな喫茶店の一角で、湯気を上げる暖かなレモネードを飲みながらヨハンは言った。
頬を上気させながら、楽しそうに、懐かしむように、ヨハンは語る。
留学先で見たもの、食べたもの、出会った人々、出来事。それらを私に語りかけることによって、ヨハンは自分の心の中の宝箱へ大切にしまうのだ。
デュエルアカデミア本校での留学生活は、どうやら彼にとってかけがえのない時間になったらしい。


「それでさ、その親友が学園に迫ったダークネスの危機を跳ね除けちまった、ってわけ。ほんと凄いんだぜー、あいつとあいつの操るヒーロー達は。俺も宝玉獣達も頑張ったけど、でも結着を付けたのはやっぱりあいつだったんだ」


つきりと胸が微かに痛んだ。
それはヨハンが“親友”と言う度に、はっきりと質量を持ったかのように私を襲い、次第に威力を増していく。
私の知らない、ヨハンの顔。噛み締めるように“親友”と口にする彼の顔はとても穏やかで優しくて、私は何だか泣きたくなる。
私にとってヨハンは一番の友達で、何でも話せる大事な人で。ヨハンも同じだったらいいのに、と思っていたから。

けれど、それは違った。
私にとってヨハンは一番の友達でも、ヨハンにとっての一番の友達は私ではなかった。
会ったこともない、赤を纏い鮮やかに闘うヒーローがヨハンの一番の友達になっていたのだ。
ヨハンから齎される情報だけの赤いヒーローが私の頭の中で華麗にカードをさばく。

聞けば、その親友はヨハンと同じく精霊が見えるという。そうとなってはもうお手上げだ。
特別な世界を共有出来る彼等の間に私は入り込めない。精霊を見ることが出来ない私は、ヨハンと世界を共有出来ない。

 
 テーブルに二人分のオムレツが並んだ。
オムレツに手を付けながらもヨハンは相変わらずアカデミア本校でのこと、親友のことを話続ける。
私はもう正直な所ヨハンの親友の話を聞きたくなくて、適当に頷きながらオムレツにフォークを入れた。
口に入れるオムレツの味がよくわからなくて、ソースを多めに絡めて次々に口へと運んでいく。それでも鈍っていく味覚。そしてぼやける視界。と思ったら口の中にしょっぱさが広がっていった。ソースの味はわからないのに涙の味はわかるらしい。

静かに泣きながらオムレツを頬張る私を見て、流石に不審に思ったヨハンが「大丈夫か? 何だよどうしたんだよ」と狼狽える。私は首を横に振り、またオムレツを食べた。

「うーん、こういう時十代ならどうするかな……」

聞こえてきた日本人らしき名前。新しい親友の名前。
追い討ちを掛けられた気分で、私はさらにしょっぱくなるオムレツを形振り構わず豪快に齧った。
何故こんなに涙が出てくる? どうして胸が苦しい? 最初から答えが出ている問い掛けに、いまさらながら私は声に出さずに答えを返す。


私は、ヨハンの一番になりたかった。

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