勘違いでした/鋼の錬金術師


 「それで、名前ちゃんは確かに清掃員の面接を受けたのね?」

「はい。銃やら武器を扱ったりする試験もあってちょっと変だなって思ったけど、一応軍だからそういうものなのかと」

「……あー……」

名前の言葉に、ヒューズやファルマンらが額に手を当てて呻いた。
はあ、と小さく溜息を付いたホークアイが名前の前に立ち、優しく言い聞かせる。

「あのね名前ちゃん。普通、清掃員になるのに武器を扱う試験は無いわ。貴方が受けたのは軍の入隊試験だったはずよ。よく思い出して?」

ホークアイの言葉に名前は頭を抱えてうんうん唸る。
しばし唸り続けたあと、「は!」と顔を上げてホークアイを見上げた。
くわっと見開かれた目に、ホークアイが怯む。

「思い出してみたけど……確かに“清掃員の試験”なんて一言も言ってなかったっす!! 私、清掃員の試験前提で受けてたから全然気が付かなかった!!」

“き……気付くのおせええええええ!!”

うわあああ……とその場にいた名前以外の全員が心の中で叫んだ。

「……あ、でも私軍の仕組みとかよくわからないっすよ? 士官学校も出てないし……」

「ああ、そのことだが。試験官の一人に偶然お前さんと同じ田舎を出てる奴がいてな。お前さんのことを知っていたようで、お前さんの銃の腕を昔から見込んでいたらしく試験をパスさせたそうだ。地元じゃ有名らしいな? 苗字の鉄砲少女」

「……でも、私軍人なんて……。だって、軍人になったら人を撃つんでしょ? 私、今まで獣を撃ってきたっす。人を撃った事なんてないし、これからも撃つ気なんて無いっすよ……」

名前がしゅんと肩を落とす。
それを溜息をつきながらヒューズが見下ろす。ホークアイらやエド達も名前に心配そうな視線を送った。
しんと静まった部屋。静寂を破るように、マスタングが口を開いた。

「軍人になるのがそんなに嫌なら帰るといい」

「え……」

マスタングの言葉に名前が顔を上げた。
マスタングは静かに続ける。

「勘違いをしていたとはいえ、軍人としての扉が開いたんだ。だが君は嫌だという。……引き返すなら今だぞ? こちらとしても、覚悟のない者に用はない」

「……ここで引き返したら、田舎の皆に顔向けできない……でも、やっぱり無理っす!」

名前は頭を抱えて叫ぶと、周りに居たホークアイらを押し退けて走り去る。
勢い良くドアを開け放つと、そのまま飛び出した。

「あ、名前! 待って……」

「アルフォンス」

ゲイルの後を追おうとしたアルをマスタングが呼び止める。
振り返ったアルに、マスタングは何かを投げ渡した。

「それを彼女に渡してくれ。……“出来れば”でいい」

「……うん、わかった」

一つ頷いて、アルは再び走り出した。



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