憧れのミニスカ/鋼の錬金術師
「あ、あの……軍の東方司令部ってところに行きたいんですけど、どこにあるか知らないっすか……あわわ」
道行く人に東方司令部の場所を聞いて回る名前。だが時々通り過ぎる人と肩がぶつかり、その度に狼狽え戸惑っていた。
そしてさっと道の端に避難するとしゃがみこみ頭を抱える。
「うううッ……やっぱり田舎の外は怖いい……! この町の人はみんな冷たいっすよお……」
ううっと肩を震わせる。そこに、一人の男が近付いてきて声をかけた。
「お嬢さん、大丈夫?」
「……う?」
オリーブ色の瞳が男を見上げる。
目が合うと、男はにっこり笑い手を差し伸べた。その手を取り、名前は立ち上がる。
「どうしたの? そんなとろにしゃがみ込んだりして」
「い、いやあその。東方司令部ってとこに行きたいんですけど、行き方がわからなくて……。実は前にも一度試験を受けに来たことがあるんすけど、すっかり忘れちゃった」
「東方司令部に用があるのかい?」
案内してあげるよ、と男は名前の肩を抱いて歩き出す。
やっと親切な人に出会えた、と、名前はほっと息をつく。
「東方司令部に清掃員としてお勤めすることになったんです。きっとミニスカート履いてお仕事するっすよ! 憧れのミニスカお姉さんっ!」
「清掃員はミニスカ履かないと思うけどなあ」
「うふふー、私ミニスカなんて洒落たもん初めてだから楽しみでしょうがないっすー」
にこーっと笑う名前。
男は苦笑していたが、すぐに表情を変えた。
――先程の兄弟が近付いてくる。
ガシャガシャとした足音がごく僅かに聴こえたのだ。
「あれ、そういえばお兄さん。その鞄女の子のもんみたいに可愛いっすね」
名前が男が持つ女物の鞄……見知らぬ女性から引ったくった鞄に気が付いた。
男は名前を道の橋に引き寄せると、持っていた鞄を渡して突然頭を下げた。
「お嬢さん! どうか俺の変わりにこの鞄を持って逃げてくれ!」
「えええっ」
「実は俺、今悪いやつらに追われてるんだ……。でも俺はこの鞄を妹に届けなきゃならない。この、妹との思い出が詰まった鞄を……!」
「妹さん、との……?」
「ああ……。妹が病院に入院してて、ベッドの上でこう言うんだ。『お兄ちゃん、私の鞄を持ってきて。お兄ちゃんが昔プレゼントしてくれた鞄よ』って……。だから頼む! 後で絶対合流するから、今はお嬢さんが持っていてくれ!」
ただならぬ男の様子に、名前は戸惑いながらも頷いた。
「よくわからないけど、妹さんが待ってるっすね? わかりました!」
受け取った鞄を抱きしめ、名前は意気込む。その時。
「おおっと、そうはいかないぜ。引ったくり犯さんよ」
少年の声が響いた。
男と名前は振り返る。そこには金色の髪を靡かせる赤いコートの少年、エドワード・エルリックの姿があった。
「チッ……」
男はエドから後ずさると反対方向へ逃げ出そうとする。だが。
「逃がさないよ」
騒然とする道。そこには大きな鎧、アルフォンス・エルリックが立ちはだかっていた。
「くっそ……」
「いい加減観念しやがれ!」
ぱん! とエドが両手を合わせ、
その両の掌で足元の石畳を叩いた。すると青白い光を放ちながら石畳が変形し波打つ。
波の中から表れた、巨大な石で出来た手が男を掴み上げた。
「よっしゃ!」
男の元へとエドが駆け出す。
だが、聞こえてきた悲鳴にその足が止まった。
「きゃあああ!!」
悲鳴を上げたのは男の側に偶然いた女性だ。
彼女の視線の先には。
「に、兄さん!」
「……野郎……!」
石の掌に拘束された男。その抱え込まれ、男に喉元にナイフを押し当てられ固まる名前だった。
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