来た!イーストシティ!/鋼の錬金術師


 「じゃあなあねーちゃん!」

がんばれよー! と車の運転席から身を乗り出し、手を振って去っていく中年の男。
その彼に手を振り返し、大きな声で叫ぶ少女がいた。

「おっちゃーん! ありがとー!」

ぶんぶん振り回していた手を下ろし、少女……名前は大きなトランクを持ち直した。
こげ茶色の髪を揺らして、服のポケットから取り出した地図を眺める。

幾つもの汽車を乗り継ぎ、時々ヒッチハイクをして東部の田舎からイーストシティまでやってきた……のだが。

「ふー……何とかイーストシティまでたどり着いたあ………けんども」

一旦地図から顔を上げ、名前は周りを見渡す。
行き交う車と人々の波の中で、名前はくしゃっと顔を歪ませて叫んだ。

「東方司令部ってどこっすかー!」



 ■


「行ったぞアル! 絶対逃がすなよ!」

「わかってるよ兄さん!」

同時刻、イーストシティのとある路地をエルリック兄弟は走っていた。
目の前には女物の鞄を片手に引っさげ走る一人の男。
数分前に大通りで女性から鞄をひったくった男だ。その一部始終を偶然見かけたエドたちは逃走する犯人を追いかけているとわけだ。

「くそ! しつこいチビ野郎だ!」

男はそう吐き捨てると近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばす。
それを避けたエドは青筋を立て、男の背中に蹴りをくれるべく思い切り飛び上がった。

「だあれがスーパーウルトラハイパードチビだあああ!」

「そこまで言ってないよ兄さん! ……って兄さん前前!」

危ない! というアルの声にエドがはっと正面を見ると、そこは壁だった。
男の背中しか見ていなかったエドは行き止まりに入り込んでいたことに気が付かなかった。

「やっべッ……」

ガッシャアアン!!!

……数秒後、大きな音を立てエドは壁に激しく激突し動かなくなった。
それを壁の上から見下ろし、犯人の男は逃走を再開した。



 エルリック兄弟を撒いた男は再び大通りに出る。
人ごみの中をすいすいと進んでいくと、目に付く一人の少女の姿があった。
あわあわと人の流れに流される少女。男の口角が上がる。そして声をかけた。

「お嬢さん! 大丈夫?」


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