心配ご無用!(イナズマイレブンGO)


 一乃と青山


「一乃、青山!」

夕暮れのグラウンドに、俺と青山の名前を呼ぶ声が響いた。
ボールを蹴る足を止めて、俺達は声の聞こえた方を振り返る。そこにはクラスメートの苗字が立っていた。

苗字はサッカーを通じて知り合った小学生の頃からの友達で、何かと俺やセカンドチームを気にかけてくれて、よく話をする間柄だ。
蜂蜜色のショートカットがよく似合う子で、実はちょっとだけ気になってる。
……こんな風に思ってるなんて青山にもまだ言ってないけど。

「苗字」

苗字は一度キョロキョロと周りを見回してからグラウンドに小走りで入ってくる。
部としての今日の活動は終わったから、グラウンドには俺と青山しかいない。
一日でも早くスタメン入りするため、青山と二人で特訓中だ。
苗字は制服のスカートを翻し、俺達の前までやってくると、「やっ」と小さく手を振って笑う。
夕日を浴びて光る髪が綺麗で、少しだけ頬が熱くなった。



 ■


 「ふーん、スタメン入のための特訓かー。サッカー部に戻れたからって、やっぱりすぐにスタメンに入れるわけじゃないんだね」

「ああ……」

苗字はベンチに腰掛けながら、サッカーボールを手で弄ぶ。
ぽん、ぽんとボールを手の上で転がしながら、俺達を見る。
水分を取りながら、苗字が持ってきてくれたチョコレートを一つ口に運ぶ。

「皆達との間に大きな実力差がある。ちょっとでも多く練習して、その差を縮めないといけないと思ってさ」

「セカンドチームが無くなって……それから俺達はくすぶっていたから」

「……」

俺に続いて言った青山に、転がしていたボールを膝の上に乗せた苗字は眉を寄せて黙り込んだ。
きゅっと寄せられた眉。何かをこらえるようなその顔に、俺は何となくその表情の理由に察しがついた。
……俺達が、セカンドチームが解散する理由となったあの日のことを思い出しているんだろう。
俺達が剣城のボールの前に屈したあの時、苗字もその場に居合わせたらしい。
次々と倒れていくセカンドの皆をどんな気持ちで苗字は見ていたのか。そんなの、考えなくたってわかる。苗字は、俺達をいつも気遣ってくれていたから。

「苗字、大丈夫?」

「あ、うん。平気平気。ちょっと思い出しちゃって」

「思い出したって……セカンドがやられた時のこと……?」

「うん……。私、あの時のこと思い出すと今でも胸が痛むの。一乃達が傷付くの、見ていて本当に辛かった。もう済んだことで、剣城くんは雷門の仲間だって頭でわかってても……やっぱり、嫌な気持ちになる」

ボールの上にあった苗字の手が、すっと自分の左膝に伸びる。
キュッと指先に力が込められるのを見て、今度は俺の目元が暗くなった。

 小学生最後の年、稲妻KFCに所属していた苗字は練習試合で足を怪我した。
原因は相手選手のラフプレー。
傷跡は残っているものの、恐らくもう治っている。けれど苗字は試合に出ることはなくなり、今でも激しい運動を自ら避けるようになった。
そんな苗字だから、あんな滅茶苦茶なサッカーによって俺達を傷付けた剣城が許せないんだろう。

「……俺達なら大丈夫だ。もう何も心配ない」

「そんなこと言ったって、心配するよ! ホーリーロードだってこれから更に激しい試合になるんでしょ? ただでさえ雷門はマークされてる。過酷な試合になる! やっぱり反乱なんて危ないよ……」

苗字が立ち上がる。
眉を吊り上げ、拳を握って。
膝に乗せていたボールがこぼれ落ち、グラウンドに転がった。

「……今さらもう戻れないよ。反乱はもう止められない。最初から引き返すなんて選択肢は無かったんだ」

そのボールを青山が拾い、言う。
苗字は青山に向き合うと「でもっ」っと言葉を漏らす。
俺は青山の隣に立つと苗字を真っ直ぐ見据えた。

「大丈夫。松風も神童も剣城も、皆本気で革命を起こす気なんだ。雷門は強い、きっと出来る」

「…………」

「だから、心配ないでくれ」

泣きそうな顔の苗字に出来るだけ優しく笑いかければ、東雲はこくっと頷いた。
心配性なんだ、苗字は。

「……それと、いつもありがとう」

「! ……うん!」

花が綻ぶように苗字が笑った。
俺と青山も顔を見合せ、にっと笑いあった。



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