生まれ変わる儀式 (ygo/十代)


 「疲れた。もう嫌だ」

そう思ったら、白い紙を用意する。白い紙がなければ、別の紙でもいい。
まず、丸める。先を出来るだけ筒の先を尖らせて。

「俺はだいぶ疲れてると思うし、傷ついているとも思う。皆のことは大切だけど、それと同じくらい、憎いと思ったことだってある」

尖らせた筒を、さらに固く握りこんでいく。
疲れきった自分、傷ついた自分、嫌いな自分。
今日までの自分を思いながら、固く、固く。強く、強く。

「結局、人はひとりなんだ。親だって親友だって、恋人だって家族だって、どんなに近くたって、ひとりなんだ。俺を満たしてはくれないんだ。些細な嫌なことがたくさん溜って、いつしか出来上がった真っ黒な湖を、誰も埋め尽くすことはできない」

それは、多分人の限界だから。
ただ体を繋げても、心を寄り添わせても、その湖は黒いままで。そのすぐ隣に別の湖が生まれるだけだ。それは透明だったり、濁っていたり、様々だけど。
そうやって沢山の湖ができるわけだ。

「もう、黒い穴だらけだ。醜い」

沢山の湖を上から見下ろせば、まるで穴のようだ。
ぼこぼこと空いた穴は、黒いものや濁ったものが多いように思える。
もう、これ以上穿つことはできない。穿つ場所が、無い。

白い紙はいつしか硬い刃になる。
自分を貫くためのものだ。尖った鋭利な先端に触れ、息を吐く。

「俺は満たされたい。どうしようもない虚無感を、ぬぐい去りたいんだよ。なあ、名前」

涙を流し、肩を震わせる。
白い刃を抱きしめて、声を押し殺して小さく嗚咽を漏らす。
名前は俺の肩に触れて、言った。

「いいからさっさと死ねばいい。いつものように」

俺はすっと顔を上げた。
気分は先ほどとはうって変わり、とても静かだ。何も感じない。
胸に抱いていた刃を己に向けて突き立てた。

「さよなら、今日までの俺」

グシャッ。思い切り胸を突けば、見えない刃が貫いた。


ぐらりと体が傾き、冷たい床に転がる。手から歪んだ刃がこぼれた。
目を閉じ、深く息を吸う。
次に目を開けたとき、それは新しい俺が生まれるとき。
次の俺は、きっとそれまでの愚かで我侭な子供じゃなくて、もう少しマシな大人だ。
人と人の小さな隙間に耐えらなくて、満たされたいと喚くのは子供だけ。
大人はそんなこときっと言わない。無駄な湖を作って穴を増やすこともない。
大丈夫、新しい俺はもっとうまくやれる。

そうやって、沢山の自分を殺してきた。穴だらけの心を刃と共に抜き去って。
そして、真っ新な心を持った自分に生まれ変わる。
閉じた目をゆっくりと開けば、名前が歪んだ白い刃を拾い上げ、俺を見下ろしていた。
視界が温かな涙で滲んだ。

「さよなら。ゆっくりお休み」

目を閉じて、俺は眠りについた。

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