いつも良い子ではいられない (ygo/遊星)


 あの雨の日から数日後、私は不動遊星という男を探し回っていた。
彼は、いったいどんな人なのだろう。不良に絡まれた私を勇敢に助けてくれた、遊星さんは。
きっと真面目で誠実、優しく穏やかで、時には勇猛に正義を貫く……。きっと、そんな人に違いない。そう思えば思うほど、ますます彼に会いたくなる。

そんな気持ちで出掛けた今日、私は神に感謝することになった。
いたのだ、彼が。
探し人は、あっさり見付かった。
通りかかった公園のベンチに遊星さんはいた。
思わず遊星さんのもとに駆け出す。

『遊星さん!』

名前を呼べば、遊星さんは私に気付き、立ち上がって小さく手をふってくれた。良かった、私のことを覚えていてくれた。嬉しくて、つい足元がお留守になる。
案の定、私は爪先を地面のタイルの隙間に引っ掛けた。

『わ……!?』

小さく声が漏れる。体はぐらりと前のめりに傾き、眼前に地面が迫る。
ああ、はしたなく走ったりした罰だ。遊星さんの前で転ぶなんて恥ずかしい……。

地面との激突を覚悟したとき、視界に誰かの腕が入り込んだ。
その腕は私の体を受け止め、転倒を防いでくれた。

『あ……ありがとうございます』

「いや……危なかったな」

ああ、顔が熱い。鈍くさくも転びかけたことより、逞しい腕に支えられたことが衝撃的で、赤面してしまう。

遊星さんは私から手を離すと、側のベンチに座るように促した。大人しくベンチに座れば、遊星さんが隣に腰掛ける
私の膝と遊星さんの脚がくっつきそうで、また赤面した。

『あの、この間は本当にありがとうございました。ちゃんとしたお礼が出来なくてごめんなさい』

「気にするな。あの後、ちゃんと帰れたみたいで良かった」

遊星さんと分かれた後のことまで気遣ってくれるなんて……。と、私は感心気味に遊星さんを見つめた。

『ありがとうございます……。あの、遊星さんは今日はお仕事ですか?』

彼の傍らに置かれた箱を見ながら言う。確か、以前も同じ箱を持っていた。

「ああ。近くの店に機械の修理を依頼されてな。今はその帰りだ」

私の視線に気付いた遊星さんは、箱に触れながら言う。なるほど、あの箱は工具箱か。
きっと、とても手先が器用なのだろう。

『すごいですね、そういう人の役に立つお仕事って素敵だと思います』

「ありがとう……」

遊星さんが笑う。私は、その笑顔に見とれてしまった。
数秒間固まってしまったが、次の遊星さんの言葉ですぐに動き出す。

「名前は、今日は何をしていたんだ?」

『私……は、私はその……散歩です! 散歩!』

咄嗟に嘘をつき、偶然を装う。
“あなたを探していました”とは言えない。
遊星さんは特に怪しがることなく相槌を打った。
話題を変えようと身の回りや遊星さんを見たとき、あるものが目に入った。
遊星さんの腕に嵌められたそれ。デュルディスク。

『遊星さんはデュエルするんですね』

「ああ。名前はデュエルするのか?」

『いえ、私はデュエルはしません。街のストリートデュエルを時々見掛けるくらいで』

「楽しいぞ」

そう言って、遊星さんは私に笑い掛ける。
デュエルかあ、いいなあ。
少しだけ、やってみたい。そうは思うけれど、母は許すだろうか。
……いや、許さないだろう。母はいつも「野蛮だ」と言って、私がデュエルに関わることを嫌っているから。
私は、街で見掛けるストリートデュエリスト達を少しだけ羨ましく思っていた。
母は今ここに居ないし、口に出すくらいならいいだろうか。本当はデュエルに興味を持っていることを。

『私も、やってみたいです。……っていっても、何となくのルールしか知らないんですけどね」

苦笑い混じりに言う私に、遊星さんは優しい眼差しを向け、口を開いた。

「良かったら、一緒にやってみないか」

『え?……いいんですか?』

遊星さんの提案に、目を丸くする。

「ああ。ある程度のことなら教えられる」

……嬉しかった。 憧れの人からの誘いは、とても嬉しく、魅力的で……。
しかし、それと同時に母の言葉が脳裏を過る。
私がデュエルをすると知ったら、母は怒るに違いない。

……でも、ここで彼の申し出を断るほうが、きっと辛いに決まってる。
まだ始まったばかりなのだ。、こんなところで躓いて後悔したくない。
私は決心した。

『お……お願いします! 私にデュエルを教えてください!』

ごめんなさい、お母様。
私は、初めてお母様の言い付けを破ります。

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