◎グサグサ(王泥喜)
「始めまして、千秋瑛真です。これからよろしくお願いします」
「お、王泥喜です……よろしく……」
ちょっぴり、というかかなり嫌そうな顔と声、申し訳程度に下げられた頭。
第一印象は、まあ最悪だ。
成歩堂さんがソファで茶を飲んでいる。希月さんは依頼で外出。俺は自分のデスクで書類を抱えていて。
そして、目の前には小柄な女の子がひとり。
女の子、千秋と名乗ったその子は、ずいっと距離を詰める。
少しびっくりしながらも、デスクが邪魔で仰け反れない。千秋さんはまじまじと、それはもうジロジロと俺を見た。そして。
「……っは」
鼻で笑った。
「こんなのが、あの人のねえ……ふうん」
「……え、ええええ。ちょっとなんなの君! 初対面でそれはないんじゃ……」
な、何なんだこの子! 失礼すぎる! そう長く生きてきたわけではないが、こんな生意気な女の子初めて見た!
じっくり俺を品定めし、ひとりで何か納得しては頷いている。
一瞬で俺を忘れるそのスピーディさに俺の心は「哀」の反応を見せた。と、思う。
「あの人が認める弁護士だって言うからどんなのかと思ったら、なんだ。ただの学生じゃない。高校生?」
「んな!」
グサ! っと心に礫がぶち当たる。痛い!
こ、高校生……。ていうかあの人って誰……。
「ぷっ……くくく……」
「なんで笑うんですか成歩堂さん!」
ソファの方から成歩堂さんの小さな笑い声が聞こえる。
自分の部下がいじめられてるんだぞ!? 薄情な上司め!
「チビって! あのねえ、俺はこう見えてもう23です! それに、君だって随分小さいじゃないか! 中学生かと思った!」
人のこと言えないだろう!?
そう続けて、びしっと指を突きつけた。すると千秋さんはその指をむんずと掴み……
「いだだだだだ」
ぐいいいいっと引っ張って折り曲げようとした。なんて子だ!
俺達にとって証拠品を突きつけるこの指はとても大切なものだ。それを初対面でへし折ろうとするなんて……!
小さな手が離れたところで、へし折られそうになった指を涙目になりながら摩る。
「あっはは! このチビデコ面白い!」
「チビデコ!?」
「ぶっ……あははははは!!」
「成歩堂さん! 笑ってないでこの子何とかしてください!」
ついに大笑いし始めた成歩堂さん。千秋さんも人の悪そうな、それはそれは小憎たらしい笑みを浮かべ、目尻に浮かんだ涙を拭っている。
ああもう助けて葵!!
「まあまあ、王泥喜くん。御剣にも預かるってしっかり返事しちゃったし、みぬきも了承してくれたし、どうにもならないから仲良くしてよ」
「……そういうことなんで」
「え、えええええ…………」
嫌だあああ! と叫ぼうとした声は、全身の脱力とともに消え失せた。