◎ホワイトデー! 2014(王泥喜)
「千秋さん、どうぞ」
夕暮れ前、事務所を出ようとした瑛真を王泥喜が呼び止めた。
振り返る瑛真に、鞄から取り出した可愛らしい瓶を渡す。
「あー……。ズバリ、バレンタインのお返しですね」
「そう、ズバリその通り」
あは、と王泥喜が後ろ頭を掻く。それから「定番だけど、キャンディだよ」と付け加えた。
瑛真は瓶をじっくりと見つめて、ふむふむと頷く。
薄水色のリボンが巻かれた可愛らしい瓶の中に、これまた可愛らしい色とりどりのキャンディが詰められている。
「一見するとよくある飴ですけど……これ、ブランドものですね! 王泥喜さんにしてはいいチョイスです」
「俺にしてはってなんだよ……。これでも色々考えたんだぞ」
食事とか物を贈るのは牙流検事がやるだろうし、だからってあんまり安物でもなーって。
ぶつぶつと何やら言う王泥喜を無視して、瑛真は瓶を見つめる。
小さく振れば、カタカタと音がした。瓶を振った時に聞こえるこの音が瑛真は昔から好きだった。プレゼントとなると格別だ。
「コンビニのチョコがブランドお菓子に……わらしべ長者だ」
「……そうだね、うん」
二本の触覚のような髪をげんなりさせ、王泥喜が言う。
瑛真は頷き、その触覚をぴんと上向かせるようにつまみ上げた。
「見事三倍返し!」
「……そうね」
瑛真は嬉しそうに箱を両手で持ち、くるりとその場で回った。
まるで子供のような仕草に、王泥喜も苦笑するしかなかった。
瑛真はふふ、と笑って瓶に頬を寄せる。
「……えっと」
その姿に、王泥喜の心臓が微かに跳ねた。ほんのりと頬に熱が集まるのがわかって、思わず目を逸らす。
そんな王泥喜に構うことなく、瑛真は軽く頭を下げた。
「ありがとうございました! すごく嬉しいです。大事に頂きますね」
「ん。どういたしまして」
なかなか見られない、キラキラとした瑛真の笑顔に、王泥喜も自然と笑顔で頷いた。