口は正夢の元




『骸…』



「え、ちょ…、男主っ?」



突然ソファーに押し倒され、すす…っと頬を撫でられる
男主の瞳にはいつもの涼しさはなく、澄み渡る青色は、その色と反対の熱をはらんでいた



『悪い、』


「それは……!」



何に対する謝罪なのか、そう紡ごうにも唇を塞がれてしまえば言葉にできない



「…っ、は……ん…」



あんなにも熱を持った瞳をしていたというのにその行為は何処までも優しく、だからといって息をつく暇は与えてくれない



「っ男主…!ん、んぅ…っ」



名を呼べば男主の舌が僅かに開いた隙間からねじ込まれ、狭い口内を暴れまわる
男主の舌によって僕の舌は逃げようとしてもすぐに絡めとられる



いつもよりも長く執拗なそれに身体に力が入らなくなってゆく



くちゅりと厭らしく水音をたてて漸く男主の唇が離れる
それでも遠くはない距離を銀色の糸が繋ぐ



自分の唇をぺろりと舐める男主の瞳は熱だけでなく、獲物を狙うように鋭い



『甘い、な』



瞳の鋭さとは裏腹に、その言葉はいつも以上に優しさを感じるものだった







―――――――





「という夢を見たんです」



「…それをなんで僕に言うの」




鹿威しの音が響くここは風紀財団イタリア支部
本当にイタリアかと言いたくなるほどに立派な日本庭園を脇目に、話をしている二人は犬猿の仲(多少一方的に目の敵にしているところはあるが)



「何故?偶々ですよ、偶々」



「偶々で仕事の話から君の欲求不満の籠った夢の話なんか聞きたくないよ。本当に君って気持ち悪い。」



「な…っ!気持ち悪いとはなんです。というか僕は欲求不満なんかじゃな゛…!」



心外だと立ち上がろうとすると、馴れない正座で足が痺れ踞る



はぁ…、と溜め息をつかれたのにさらに腹が立ち睨み付けるが、足の痺れのせいで涙目になっている状態で睨まれようが気にもとめてないかのように無視された



「違うって言うけど、君の夢の話を聞く限りそうとしか思えないけど?」



本当に違うって言い切れるの?



そう続けられれば否定の言葉が出ずに言い淀んでしまう



「どっち?はっきりしなよ、僕も暇じゃない」



畳み込むように急かされ、頭の中はごちゃごちゃと混乱していく
そうなってしまえばまともな答えなど出せるはずもなく…



「そう…なのかも、しれない」



「ふぅん…。だってさ」



男主



まるで本人がいるという風に襖の向こうへ雲雀が声をかける
するとゆっくりとその襖が開き、悪戯っぽく笑っている男主



「そういうことだから早くそのパイナップル持ち帰ってくれない?仕事の話は済んでるから。」



『ああ、そうさせてもらう。俺の要件は草壁に伝えておいた。』



「そう。」



あまりに予想外なことについていけず、金魚のように口をパクパクとさせていると、いつの間にか目の前に来ていた男主に横抱きにされる




男主の肩越しに日本家屋が遠ざかっていくのを呆然と眺めていることしかできなかった意識が、耳元で囁かれた言葉でニヤリと笑うその顔に釘付けになった






夢のままじゃ
(終わらせない)

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