安心できる空間
「____………。」
少し離れたところから声が聞こえる
声、と言っても話し声ではなく、リズムからして歌のよう
ゆっくりと意識が覚醒していくのにつれて歌詞もはっきり聞き取れ甘い匂いに気がついた
「__…純粋で 美しい…世界になれば〜……」
歌の合間にカチャカチャと食器が当たる音がする
音と漂ってる匂いで何をしているかは想像がつく
『(随分と機嫌がいいみたいだ)』
歌まで歌っているんだ、相当いいことでもあったのだろう
__でも何が…?
寝ていたとしてもそんなに長い時間ではないはず(なにかを作り始めるくらいだから短時間とも言えないが…)
完全に冴えた頭で考え始めるが全く思い付かない
寝ていた間に何かあったとすれば…それは少しモヤモヤする
あれだけあいつを機嫌よくしたのが俺じゃない、ということに
元はと言えば、疲れがたまってたとはいえ久しぶりに会えた恋人を放置で寝てしまった自分に非があるけれど
それでも…__
「…おや、目が覚めたんですか。お早う御座います、男主」
「っ、ああ。」
モヤモヤとした気持ちになりながら考え事をしていたせいで、いつの間にか近くに来ていた骸の気配に気づかなかった
声をかけられ頬に触れられたことでやっと気付くくらいに集中してしまっていたらしい
「クフフ 驚かせてしまいましたか?」
『とっくに目は覚めていたんだが…少し、考え事をしててな…。』
起き上がりながら気配に気づかなかったことに苦笑し答えると、またあの独特な笑い方で笑われてしまった
「そうみたいですねぇ…。寝起きだというのに難しい顔をしている。何を考えていたんですか?」
頬を撫でられ、覗き込まれた両サイドで色の違う瞳を見つめ返す
『…なんでお前が不安がる?』
「質問しているのは僕です。」
眉間にシワを寄せじとりと睨まれれば、こちらが答えるまで答える気はないと言うことだろう
『お前の機嫌のよさの原因が気になっただけだ。』
「………は…?」
目を逸らしふぅ、とひとつため息をつき答えもう一度目を合わせると、先程までの不安そうに揺れることなくキョトンという効果音が聞こえてくるくらいに呆然としている
思わす笑ってしまうとムスっとした顔になり、でもどこか嬉しそうなそんな色が見てとれる
「夢見でも悪かったのかと思っていたら…そんなことですか。」
『そんなことって…お前なぁ…』
「心配し損じゃないですか。僕の心配を返してください。」
俺にとっては重要なことだというのに…
ぶつぶつ言いながら心配を返せというのをスルーし何故そんなに機嫌がいいのかと聞くと
「そりゃあ久しぶりにこうして男主と過ごせますからね、機嫌もよくなりますよ。」
『俺が寝てたのにか?』
「ここのところ忙しくて寝ていなかったでしょう。なので寝ることに関しては構いませんよ。」
それに…と骸は言葉を繋げる
「こうして同じ空間にいて、警戒心の強い男主の安心しきった寝顔を見れるのは、恋人である僕の特権ですからね。」
『、そう、か』
嬉しいような恥ずかしいようなことを微笑みながらさらりと至近距離で言われるのは未だに馴れない
鼓動が一気に加速するのを感じながらそっぽを向く
「あ、照れてます?照れてますよね、耳まで真っ赤ですよ。」
俺に対して滅多に立てない優位な状況にニヤニヤしつつからかってくる骸に少しムカつきながら睨むと余計にニヤニヤし出した
「クフフ。照れてる男主をもっと堪能していたいところですが…チョコレートケーキ作ったんです。お茶にしましょう?」
さっき作っていた物の正体はチョコレートケーキ
匂いで大体はわかっていたがこの様子だと自信作のようだ
『骸の手作りか、楽しみだな』
呟いた言葉が聞こえたらしく、また微笑みを浮かべると準備をしてくると立ち上がった
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