さぁもう一度
偶々訪れた街で有名だという桜
「やはり日本には劣りますねぇ…。」
残念そうな、でも懐かしさの混じる声色で呟かれたそれは、誰に拾われるでもなく春風に消される
桜を見上げ、思いを馳せるはただ一人
中学高校と過ごした黒曜で、マフィア関係以外の思い出に色濃く写る彼に
別れを告げられてから7年
それでも尚、色褪せることなく脳裏に焼き付いているあの時の光景
『もう、お前とは会えない』付き合って1年とちょっとの時
想いが通い合った桜並木の淡い桃色が新緑に染まり始めた雨の日
傘もささずに告げられた言葉
俯いた顔は最後まで上がることなく、彼がどんな表情で、どんな気持ちでいたのかはわからない
雨なのか泣いているのか、それすらも
理由もなく“会えない”とだけしか言わない彼に、どうして、何故、何かあったのか、自分が何かしてしまったのか、ぐるぐると駆け巡る疑問になにも言えなかった
ただ、震えた手をとることも、濡れた頬を拭うことはもう出来ないのだと、それだけが理解できた
「男主…。」
雲雀恭弥じゃないけれど、あの後は桜を見るのが嫌だった
同じくらいに雨も
どんなに楽しい思い出を思い浮かべても、最後には必ずあの時の光景に変わってしまう
「桜は平気でも…まだ、雨は好きになれない。」
山本武の技も、戦いの最中でなければ目を背けたくなるほどに
「いつになったら塗り替えられるんですかね…。」
7年経った今でも想いは変わることなく、彼を求め続けている
「こんな僕を男主は未練がましいと笑いますか?」
唯一度の本気の恋を
愛で塗り替えられるまで あと少し
『笑わないさ』
思いを馳せた彼によって[ 8/12 ][*prev] [next#]
[mokuji]
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