シンデレラストーリー@




私はウィンズ家に仕えて1年が経つ。我愛羅殿下のお姉様にあたるテマリ様の一番の召使いに昇進したばかりだ。私の主人でもあり姉貴分でもあるそのテマリ様からの一言が私の人生を大きく変えた。



「今夜のマスカレードに参加しないか?」



「え?あれは貴族だけが参加できる行事では…」



マスカレードと言えば貴族達が各々のマスクを装着して夜通し踊るパーティー。
原則として自分が誰かなのかを決して明かしてはならない。


身分上、私は準備と片付けだけ携わることができる。それで参加した気になっていた。
勿論、参加したいという希望はあったけどそれは死ぬまで果されぬ希望だと思っていた。


「ウィンズ家のパーティーで私が許可しているのだぞ。それにマスクもあるから誰か分からないしな。」


そう言ってテマリ様は笑みを浮かべる。私は何度もお礼を言った。この上ない幸せだった。二度とない機会を逃すわけにはいきまい。


開催1時間前になったら私の部屋に来い、と言われ、私は興奮を隠せぬまま急ぎ足で部屋を後にした。







開催1時間前になっても着ていくドレスもない私にテマリ様は全て準備してくださった。ティアラからハイヒール、化粧や髪型まで全て。まさしく魔法をかけられたシンデレラの気分だった。


「どうだ?若い頃の私とサイズが一緒だからぴったりだ」
「ありがとうございます、テマリ様。この恩は決して忘れません」


テマリ様は満足げな顔をした後、ご自分の準備に取りかかりなさった。テマリ様の準備が終えた頃に私はマスクを装着し、いざ会場へ行かんとした時、テマリ様は深刻な目で私を見た。


「私がこのウィンズ家としてパーティーに参加するのも今日で最後かもしれぬ。」


最後?
私はどう返せばいいか分からなかった。
ほんの少し引っかかるものの、深く追究することはなかった。







会場はウィンズ家の宮殿内にある大広間だ。長い廊下を歩いている途中も少し空気が重く、気まずくなっていた。何も言えないままでいる私は、さっきの言葉を聞くまで自分は何も知らずに興奮していたことと、この沈黙を破れないでいる自分の気転の悪さに恥ずかしく思う。しばらく考え込んでいると、この沈黙をテマリ様が破った。


「さっきのは忘れてくれ。今日は楽しんできな」
「あ、はい…」


悩んでいても仕方ない。時間がこの疑問を解いてくれるだろう、そう信じた。







真っ暗で長い廊下の向こうにあるドアの隙間から明るい光が見えてきた。音楽が廊下に反響している。


私たちはゆっくりと大きくて重たいドアを開けた。そこはさっきまでここで準備していたとは思えないほど人の数と、色とりどりのドレスや光輝く宝石によってこの会場を異世界と化していた。


「ここでは堂々と歩きなさい。貴族らしく」
テマリ様が私の耳元で囁く。


貴族らしく、貴族らしく。
私は貴族ぶるよう全力で努めた。慣れないハイヒールを履き、カツカツと音を鳴らして堂々と歩く。


しばらくするといつの間にかテマリ様は私の傍にはいなかった。
周りを見渡せばマスクを着けて踊る人に囲まれていた。







大勢の人が踊る中に巻き込まれ、不安になった。
1人では踊れない、でも帰りたくも逃げたくもない。
頭を抱えてその場で丸くなりたいと思った時、誰かが私の腕を掴んできた。


「俺と踊りませんか?」


声のする方へ振り向くと容貌魁偉な1人の貴公子が私を踊りに誘っていた。
勿の論、彼がどんな顔をしているかなんて分かりやしないけど。


「ええ、喜んで」


何だか自分ちょっと偉そうだったかな、と反省する。でも彼はそっと手を差しのべて優しく私をエスコートした。






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