優しさの味


 


「ヒナタ!!お前、怪我大丈夫か?!」


息を切らして病室に駆け込んできたのはキバくんだった。

私は昨日、任務を終えて帰ってきたけど全治二週間の怪我を負ってしまった。



「うん…私は全然大丈夫。ちょっと骨折れたくらいかな…」


「それちょっとじゃねーじゃんかよ!早く治して外走り回ろうぜ!ほら、果物もたくさん持ってきたからちゃんと食えよ!」


そう言うとキバくんは引き出しを開けて何かを探し出した。そして取り出したものはあらかじめ用意しておいた包丁だった。自分は絶対使わないから要らないと思ってたんだけどね…。


キバくんは果物がいっぱい入った袋からりんごを取り出して剥き始めた。


どうして?頼んでもいないのに。


どうしてそんなにあなたは優しくするの?



「ほら!おれ、りんごの皮むきだけは得意なんだぜ?」


得意気な顔をして、また剥き始めた。


どうして、どうして、どうして。


あなたにはいのちゃんがいるでしょ?


そんな無理して来なくていいのに。


「このりんご上手そうだな!」


胸が痛くなる。色々考えると泣きそうになる。


「おい、どうしたんだ?」


下を向いていたらいきなり覗き込んできた。

見ないで。半泣き顔って一番恥ずかしいから…


「泣きそうじゃん。なんで?嬉し泣きか?」


おちょくるようにほっぺたをツンツン突っついてくる。


触らないで。いのちゃんが見たら怒るよ…


「もう…お見舞い来なくていいよ…?」


思ってもいないことを口に出してしまった。そのせいでこみ上げていた涙が溢れ出した。

キバくんはお構いなく笑っていた。


「お前はいつも笑わせてくれるねー!んなこと思ってねーくせによ!いのがいるからだろ?だからってお前を見捨てたりするかよ。チーム!仲間!親友!」


よっこらせっと言って立ち上がり、出来上がったりんごを私の目の前に差し出した。


「これ全部食わねーと怒るぞ」


また明日来るからな、と私の頭をくしゃくしゃと撫でて病室を後にした。
私はあの大きな背中を、見えなくなるまで見つめた。


りんごに目をやると、それはそれはとても歪な形をしていた。


ごめんね、キバくん。笑っちゃった。



一口食べるとまた涙が溢れてくる。



優しさの味。



また明日も、りんご剥いてね。




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淡い恋を描きたかった…!
ヒナタといのの心情は書きやすいです(笑)

2012.10.05



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