special | ナノ
▼ なくしたくないものがある
愛する女の「昔の男」の話となると平静でいられない、などと俺の器が小さいからなのだろうか。そう思いながらもエルヴィンは、付き合っていたときからほんのたまに垣間見る妻の「昔の男」の話題には彼ながら寛大に付き合ってきたつもりだった。
たとえば、ナマエと新居に引っ越すときにクローゼットに仕舞いこんであったアクセサリー。彼女の方から「昔つきあってた人にもらったのだけど」と切り出したのだが、彼はもし気に入っているなら持っていけばいいとなるだけ平静を装って言いのけた(本当はとてつもなく嫌だったのだが彼女が捨てると言ってくれたのでかなり救われた感はあった)。
終わったことは気にしたって仕方がないのだと思うものの、今夜のナマエにはエルヴィンもとうとう平静ではいられなくなってしまったのだった。

いつものように帰宅して、愛しい妻に迎えられ一度ハグをして一緒にダイニングへ…と妄想をめぐらせていたのに。ただいま、と開けた玄関にパタパタと駆け寄る妻の姿がない。
様子がおかしいと思ったエルヴィンはリビングを覗いてやっとナマエを見つけると、彼女は電話で誰かと話をしている。そうか、とエルヴィンは納得し、電話中なら仕方ないとネクタイを緩めた。

ほんのまもなくしてナマエは電話を切り上げて「ごめんなさい、お迎えできなくて」と申し訳なさそうに言った。

「良いんだ。それより電話を切らせてしまったかな…友だちから?」

「えっと…」

ナマエが言葉を濁したので、エルヴィンの脳内には疑問符が浮かんでしまう。
しかし彼女は続けた。

「隠してたくないから言うけど、さっきの元彼からだったの」

ほんの一瞬、ぴんと張り詰めた空気が二人の間を流れた。エルヴィンは、そうか、と返すのだけで精一杯で他になんと返すべきなのかを考えあぐねてしまうのだった。
仕事疲れも相まってむくむくと嫉妬のような、ただの癇癪のような感情がエルヴィンのなかに渦巻いてゆく。
今までも定期的に連絡を取り合う仲だったのだろうか。結局ナマエとその彼の付き合いは俺との期間よりももしかすれば長いのかもしれない。悶々としたものがエルヴィンの頭のなかを取り巻いて支配する。
そして考えるより先に身体が動いていた。乱暴に彼女の腕を引いてダイニングの壁に押し付けて、呼吸ごと奪うように唇に噛みついていた。
結婚をして、自分のものになったというのにどこか遠くに行ってしまいそうなナマエをエルヴィンは一生腕のなかに閉じこめておくかのようにきつく抱き締めながら口内を犯してゆく。角度を変えながら溢れる唾液を吸っては流し込み、ついにはナマエが苦しげに声を上げたのでそこでやっと彼女を解放してやった。
涙を浮かべた苦しげな表情にさえもそそられてエルヴィンは息を整える妻の姿に密かに身体の中心に熱をあつめてしまうのだった。

「ナマエ、昔の男と連絡を取るのは止めてくれないか」

「…ごめんなさい、私」

「今までずっと連絡を取り合ってた?」

情けないのはわかっている。しかし、ナマエが大事すぎるからこそこわいのだ。誰か他の男に攫われて汚されるなんて耐えられない。確かに彼女にその気がないとしても男がなにを考えているのかなんてわかったもんじゃあない。
ナマエに首を横に振って「違う」と言ってほしくてその言葉を待ちわびるのに、なかなかどうしてその言葉を聞けないでいた。
沈黙がひどく長く感じた。


「――ちがうの。久しぶりに電話が鳴ったの。」

「それで?」

「結婚おめでとうって言われて...向こうも婚約したんだって言ってた。だからもう、絶対連絡なんて取り合わない。ごめん。」

エルヴィンはそれを聞いて、ほっと力が抜けていくのと同時にナマエへの愛しさがもうどうしようもないほど込み上がるのを意識の外に感じた。胸にナマエを閉じ込めてその存在をもっと近くに感じていたいと思った。
胸の中でナマエは、「エルヴィンもやきもち妬くのね、今まで私ばっかり妬いてるのかなって思ってた」と照れくさそうに顔を綻ばせながら言う。
まったく冗談じゃない。俺のほうが君を縛り付けるのにこんなにも必死なのだというのに。エルヴィンは恥ずかしそうに俯いた妻の唇を掬い上げるように奪った。
これほど色っぽい顔をさせているのは俺だ。やきもちを妬かせたことがあるのも俺。何よりこれからずっとこんなに間近に彼女を見つめられるのは俺だけだ。背中を這い上がる歓喜と、彼女と触れ合っていることで沸き上がってきた肉欲にエルヴィンはきつくナマエを抱きしめた。

浅く啄むような口づけの後ふたりは離れると、熱のこもった視線を絡め合わせた。ナマエがエルヴィンを引き寄せ背伸びをして唇どうしを重ねる。それに応えるようにエルヴィンは薄く開かれた口の中に舌を割り込ませた。
明々とした光に包まれたダイニングに似つかわしくない粘着質な音と艶かしい女のくぐもった声が密かに響いていた。エルヴィンの手のひらは妻の曲線をなぞり、すぐに洋服の下へと侵入していった。

「エルヴィン、ねぇ…寝室がいい、」

「…いや、だめだ待てない」

そんな、とナマエは顔をあからさまに紅く火照らせて恥ずかしそうに身をよじり出した。
そんな彼女にお構い無しでエルヴィンは下着ごと上着を捲り上げ、ぷるんと弾力のある乳房を光の下に晒す。背を丸めて中心の頂きに吸い付くとナマエは甘い声を小さくあげた。
くしゃりと彼の髪を掴んで擽ったいのを堪える彼女に気を良くしたエルヴィンはナマエの乳房に音をたててしゃぶりつきながら、立ったままの彼女の中心に指を忍ばせた。
そこは既に体温とは別の熱が感じられ、湿度の高いその空間を焦らすように柔くさすってやる。もっと強い刺激を予感していた彼女の腰はふらりと揺れて、指を隙間に欲していた身体が浅ましく恥ずかしくてひとりで熱を加速させてしまうのだった。
奥からとろりと液体がすべりおちるのとほぼ同時にエルヴィンの指は下着の横から侵入し、中指が滴る液体に絡まった。そのまま指にぐっと力を入れて奥へとめり込ませると、くちゅりと中で音がした。
それに気付いた彼女は、は、と小さく声にならない息を漏らし、下唇を噛んだ。

「声、我慢しないで。全部、聞きたいから」

全く反則だとナマエは思った。
エルヴィンの甘い声はきっとわざとで、彼女がその声に感じることを知っていて囁いているのだ。
下を見れば露わになった胸はぴんと上を向いた頂が明かりの下にさらされて、エルヴィンの服にはまったく乱れがない。中指が出入りするにしたがって水音が大きく響き、ナマエはエルヴィンの片腕にすがっていないと立てなくなるほどだった。
と、徐に彼は彼女の前に膝をつき、片腿を上げさせると、足の付け根の割れ目にゆっくりと舌を伸ばした。

「あ、だめ、待って…シャワー、」

引きはがすように彼女の手のひらがエルヴィンのおでこを押しのけるも、しかし一度感じてしまえば力が入らないのか余計に蜜を溢れさせてしまう結果となってしまう。
あられもなく声をあげて、男を受け入れる準備を整える彼女の性器が普段よりも明るいところで目の前に蜜を零すのでエルヴィンの下半身はとうにはちきれんばかりだった。
舌先を尖らせて、小さな頂を執拗に責め立てる。指は二本に増えて、膣内をぐちゃぐちゃとかき回していた。ナマエを見上げると、右足をエルヴィンの肩にかけられたまま残された左足は今にも崩れそうなほどなのだった。眉間に皺を寄せて快感に悶える顔が明かりの下で逆光になっている。腕で精一杯に身体を支えるのももうそろそろ限界に思われたので、エルヴィンは性器を取り出そうと愛撫をやめて立ち上がった。ナマエはへたりとダイニングのテーブルに後ろ手をついて、熱に浮かされた表情で彼の股間をじっと潤んだ瞳で見つめていた。
ベルトを外し、スラックスのファスナーを下げると明らかに大きくなった下着越しの性器がスラックスの隙間から覗かれた。スラックスを脱いで、下着を下ろすとぴんと張りつめたペニスが光の下に露わになった。

ダイニングテーブルにすがりついたままのナマエをエルヴィンは抱き起こし、再び片足を抱えて上げさせると、勃起した性器の先端を割れ目にすりつけて、彼女の様子をうかがった。ごくりと喉をならして身体じゅうで彼を欲する女の顔にエルヴィンの方がぞくりと腰がふるえるようだった。
エルヴィンは足を折って高さを合わせながらゆっくりと彼女の中に自身をうずめてゆく。ぎゅっとしがみつきながら、声にならない喘ぎを漏らす彼女に理性を飛ばされる思いで、彼は一気に奥までを突き立てた。

「あっ、やぁっ、!」

上半身を仰け反らせ、全身をひくつかせてエルヴィンをすべて飲み込んだ彼女は喉をむき出しにして甘ったるく鳴いた。彼は床についたままの彼女のもう片足を抱えて抱き上げると、そのまま性器の抜き差しを始めた。腕をエルヴィンに絡めてしがみつきながら、重力のままに性器が体に突き刺されナマエはあられもなく声をあげる。
いくら待ってと訴えても快感が感情を追い越して、もはや恥ずかしさなど追いつかなくなっていた。突き上げられ、尻が落ちるままに奥まで押し込まれる性器が愛しくてしかたがないのだった。結合部の粘着質な音、皮膚同士が触れ合う乾いた音とふたりの荒く漏れる吐息とがこだまして部屋じゅうの空気を濃密なものへと染め変えていった。
エルヴィンの肩に額に汗が滲み、ついにはナマエの上に大きな粒となって落ちてゆく。
白い肌が紅潮して桃色に染まったその上に汗が水滴となって滑り落ちて肌がつやつやと光っていた。エルヴィンは自分の動力のままにナマエの身体と乳房が揺られているのに我を失いそうになるほどの興奮に責められていた。必死にしがみついて快感に悶える妻が愛しくて可愛くて丁寧に奥深くまでを性器でかき混ぜてやる。

彼女の両足を抱えたまま壁側にエルヴィンは移動して、ナマエを壁に押し付けた。そして律動を一気に加速させ、小刻みに腰を揺らして絶頂へと責め立ててゆく。

「あ、ああ、あ、あっ、エルヴィン…っ」

壁に寄せて置かれた棚の上の花瓶が性交の振動を伝えてぐらぐらと今にも床に叩きつけられそうになっていた。それをふたりは視界の端にすら捉えずに、ふたりだけの頂点へとただただ駆け上っていくのだった。
いっそう膨れ上がった性器が射精を予感させて奥へ奥へと抉るように突き上げてゆく。
エルヴィンの表情に余裕が消えるこの瞬間がたまらなくナマエは好きだ。
整えられた前髪は汗で束を作ったまま乱れ、青い瞳が劣情に燃えている。引き込まれるようだった。ナマエは口を寄せて、薄く開かれて荒く息をあげる彼の唇にそれを重ねる。触れ合うだけのキスで精いっぱいで、すぐさま顔は離れた。
相変わらず二人の壁伝いの棚はがたがたと音をたてて行為の激しさを一層物語っている。

「えるび…っ、わ、たし…もう、あぁ」

「―っ!ナマエ…っ」

壁とエルヴィンに挟まれて強く性器をねじ込まれたナマエが絞り出すような声の後に達してしまうと、すぐにエルヴィンも後を追った。激しい律動のあとには花瓶が棚から落ちて割れた音以外には静寂だった。
どくどくと射精する性器をそのままにしたまま肩で息を整えるナマエをじっとしたまま抱きしめ直す。
そして寝室の方へと続く扉へと挿入を続けたままにエルヴィンは向かった。

「今夜は、寝かせてやれないかもしれない、」

やはりまた甘く囁くエルヴィンに中心に熱をもたせたまま頷いていた。
性器はまたナマエの中で硬さを取り戻していた。







20150828 えみりさまへお返事です。
えみりさま:
この度はリクエストくださってありがとうございました!
嫉妬スミスは本当に素敵ですよね。
新婚らしくダイニングで電気をつけたまんまさせてみました(笑)
楽しんでいただけたら幸いです。それでは。as









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