奇跡だったらどうしよう



重厚な扉のような瞼はぴくりとさえしない。死んだように眠っているとはこのことなのだと思った。上下に波打つ肩にほっとして、私は胸にたちこめた息をゆっくりと解放してやった。調査兵団団長エルヴィン・スミスの寝顔など、そう見ていられるものでもないのでいま暫く見つめていることにする。
金色の睫毛が私の息のせいで震えた。
やわい吐息がかかっても目を覚まさないほどに熟睡しているらしい。エルヴィンの眠り方はいつもこうなのだ。夢さえ見ることなく短時間のうちに質のよい睡眠を摂る。
その睡眠に入るきっかけが私にあるのなら嬉しいじゃないかと私はなにかこみあげてくるものを感じるのと同時に、熱をもったままの身体がさみしく切なくなってしまうのだった。

キスの途中にエルヴィンは眠ったのだ。
最初からその気ではなかったのだと私は期待を裏切られたように思って、ひとりの寝顔を前にして恥ずかしく、もぞもぞと身動ぎしていたのだけれど、いまは淡い怒りを通り越して可笑しくなってしまっていた。

あのエルヴィンが、と思うと。

淡白なほうではない彼の熱情を思えば可笑しくて愛しく思えて仕方がない。
額をこつんとエルヴィンにあてて、心の奥で、ばかと呟いて目を閉じた。
すると、彼の腕がのそりと私の身体を包み込むように回される。安らかなその重量が眠りの深淵に私を誘うように思った。
あたたかな時間がゆっくりと過ぎてゆくのを感じて、これが永遠ならいいのにと思うのだった。


「もしも目を覚ましたのなら、そこは」

ふたりでずっとしあわせに暮らせる世界ならいいのに、

エルヴィンの前でさえ言えない泡言をこっそり呟いて、しかしこの世界に産み落とされることがなければ出会わなかった仕合わせを抱きしめささやかな安寧に身を委ねた。





20150403 title by ネイビー

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