酸欠



もう充分に湿った空気。はぁはぁと荒い息づかいだけが響く静寂。むんと鼻につく汗の匂い。
透明のねばっこい液体がぬるぬると纏わりついた性器ははち切れんばかりの硬さをもって天を仰いでいた。
いつもなら精一杯の優しさで、すとんとベッドに落とされるナマエの肩も今はしっかりと起きたまま。
エルヴィンは何の合図もなく彼女の口の中から性器を抜き取ると、そのままごろんと仰向けに寝転んだのだった。
彼が自分の口から性器を抜かせたら、いよいよひとつになるときだと、ナマエの身体は覚えている。とろりとした液体が内腿を濡らしてゆく。彼女自身も彼に押し倒されて足を割られ、やや強引に太い性器で穿たれるのだと期待していた。なのに。
エルヴィンは意地悪く、「ほら、おいで」と両手を拡げるばかりで何もしてくれない。
今すぐに狭く熱い彼女の中を貫きたい性器が先ほどからゆらゆらとわざとらしく揺れているだけ。
彼女が上になり腰を揺らすのは初めてではない。しかし、これまでは受け身から始まる抽挿であったので自らはじめるというのには些か勇気がいるのだ。
緩慢な動きでもって男の分厚い体に跨がった白い肢体にエルヴィンは焦らされている気になる。
されど手助けなどしてやるものか、彼女が求める姿を見たいのだと断固として彼は微笑むばかりだった。

緊張したような面持ちなのに、ぽってりと紅く色づいた唇は半分だけ開かれたまま。吸い寄せられるように入口に彼のものを宛がった彼女は一瞬舞い戻った恥ずかしさと肉欲にせめぎ合っていた。
頬を上気させ潤んだ瞳でエルヴィンをまっすぐ見詰めるナマエのその表情が、さらに雄の本能を煽っているのだと彼女は気づいているのだろうか。今にもその細い腰を掴んで奥までペニスを満たしてやりたいと思う気持ちを彼は必死になって堪えるのだった。
つぷん、と先端がやわらかな肉に包まれると、更にゆっくりとナマエは腰を落としていく。

「はぁ………ん」

彼女から艶かしい女の声が発せられる。下から見上げる乳房がやわく揺れて、エルヴィンはそれに手を伸ばした。
ピンと張った乳首に掌が触れる。それだけでびくりと上半身を反応させる彼女の敏感さと、柔らかい乳房の感触に、さらにエルヴィンの気は高ぶってゆく。しかしそれは彼女にとっても同じこと。先に攻められ過ぎて敏感になった乳首を彼の掌が撫でるだけで下で液が零れる気がしたし乳房を揉まれれば、男がいっそう愛しく思えて腰を振りたくなるのだ。
そして、膝を立て胸についた手を支えにして、尻を浮かせまた下ろして性器を飲み込む。
性器に中を満たされるたびに嘆息するように声を出してひくつく彼女は、全身の神経すべてでエルヴィンを感じているようだった。
熱い粘膜にどっぷりと包まれ吸い付かれる感触に、彼も耐え難くなってゆく。自分の性器に感じ、自分の性器に貫かれ身体を震わせ声をあげる女が愛しくて仕方ないのだ。
ナマエが少しずつはやく身体を浮かせるのに合わせてエルヴィンも腰を突き上げてゆく。

「あ、あ、あ…待って、やだ…」

何もしてくれない彼に代わって、抜き差しを進めていた彼女にとってエルヴィンの動きは予想外なのだった。
自分で動くだけで昇天してしまいそうな快感を得られるその上に彼が奥まで性器を満たそうとするから、ナマエはもう早々に達しそうになる。
やだ、とか、だめ、とか、拒絶する科白を甘い声に乗せて発せられてもそれはエルヴィンを煽ってしまうだけだった。

「エルヴィン…まって、わたし…いっちゃ…」

二人で腰を揺らして得られる快感がナマエを責め立ててゆく。
いつのまにか高速で突き上げているエルヴィンの腰のせいで彼女の身体はガクガクと揺れ乱れていた。
前傾の姿勢で上半身を支えるナマエの乳房は身体の揺れに合わせるようにして彼の真上に震えている。

「や、だめ…ほんとに…いっちゃ…う!」

激しい揺さぶりと押し寄せる快感に身体中の力が抜けてゆくせいで、腕が立たなくなってしまったナマエはエルヴィンの胸の上にとうとう、くたりと倒れ込んでしまう。
その細い肩を抱き寄せ乳房を押し潰すと、彼は追い討ちをかけるように彼女を突き上げた。
そしてついに、あああ、と鳴いてナマエは達してしまうのだった。ぼとぼとと滴る液体がエルヴィンの陰毛を濡らす。焦点の合わない視界の奥にはまだ点滅する光の残像が残っていた。

ナマエはエルヴィンの上でぐったりとしながら思考を取り戻そうとするのに、彼は彼女を抱き締めたまま体勢を上下反転させた。
真上にエルヴィンの顔を見上げながら、下腹部につんと当てられた違和感にすぐにナマエは、はっとして下を見た。
そこでは彼が未だ完全に勃起したままの性器を彼女の入口に宛がっているところで。こうしている間にもエルヴィンはペニスを押し付け挿入しようとしているのだった。

「ちょっと、待っ…エルヴィン…だめ」

「君ばかりイって、俺はお預けか…?」

覆い被された大きな身体を両手で突き放そうとするけれど、エルヴィンの欲望を孕んだ瞳に見下ろされてナマエの中も彼を受け入れる準備を始めてしまうのだった。やわく抵抗する彼女の力に屈するはずもなく彼は蕩けたままの彼女の中に易々と入り込んでしまった。
ひたひたと纏わりついてくる粘膜に先から根元までをすっぽり包まれてエルヴィンはため息を吐く。
快感を求める腰は自然と前後の律動を始めて彼女の中を好きに犯していった。

「あ、あ…だめ、壊れちゃ…」

すぐに良がる声をあげる彼女は、気持ち良さに堪えかねるのかイヤイヤと首を振って甘く鳴いた。
身を捩らせて快感から逃げようとするナマエを真下に見下ろしエルヴィンも腰から這い上がってゆく恐いほどの興奮にそのまま身を委ね、思うがままに腰を振る。

「ああ、ああ。ナマエ…ナマエ」

名前を呼ぶと、甘えるように腕を伸ばしたナマエ。そんな彼女が更に更に愛しくなって、それに応えるかのごとく彼は抽挿を速くしてゆく。

「えるび……っ…キス、して」

こんなにも余裕なく女の中を貫いている最中を、尚も煽ってしまったのはナマエだ。とエルヴィンは思う。
望み通りにキスで唇を塞いでやれば、彼女の足が彼の腰に絡められた。
そしてまた更に小刻みに腰を振ってナマエを揺さぶってゆく。

火をつけてしまうのはいつも彼女なのだ。ベッドに入るまえ、優しく蕩けるように抱いてやろうとエルヴィンは思うのにいつもそんな彼の理性をいとも容易く千切るのはナマエ。
今夜彼女に求めさせようと思ったエルヴィンの初めの思惑さえももうどうでもよくなっていて、彼が夢中になって腰を打ち付けているのだった。

下でだらしなく感じてあられもなく乳房を揺らす乱れた女を、眉尻を下げていとおしげに彼は見つめる。
汗でだらりと下がった前髪を、熱くなったナマエの指先がはねのけた。
互いの瞳の色をしっかりと記憶に刻むみたいに見つめあったままエルヴィンは奥に欲を放つのだった。




20150111 title by ネイビー

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