シンデレラの冷たい爪先


熱のこもった視線に全身を焦がされる思いがした。エルヴィン団長の瞳は少しだけ潤みを帯び、甘ったるい膜を張っている。それでいて欲望を瞳孔に刻んでぎらぎらと鋭い光を湛えているのだ。
あまりにあからさまでむき出しのそれに、彼に密かに思いを寄せている私はもうどうしようもないほど追い詰められてしまう。
ゆっくりと彼の指がシャツのボタンを外し、素肌を外気に晒してゆく。その動作のひとつひとつが、私を好きだと言っているようで胸が熱くなるのだった。
首筋に埋められた彼の体温がそこから染み渡ってゆく。シャツで隠れる位置に何度も吸い付かれ痕を残される。

今夜は厭に性急だった。部屋に呼び寄せられてすぐに浴室に押し込められたかと思えば、着替えに用意されたのは彼が着ていたシャツ一枚で。下着さえ着けることを許されず、行為はにわかに始まった。
瞳に犯され、ボタンに掛けられた指先に感じて、じんわりと身体の奥を湿らせてしまう。それを目敏く見つけられ、もどかしい強さでそこを撫で付けられる。到底足らない刺激に更にそこは疼いた。

「もう感じたのか?」

次は低いバリトンに耳をやられる。
答えるのも癪だし声にまで感じてしまうのが恥ずかしくて、甘えるように手を伸ばし彼に腕を絡めながらキスをねだった。
唇を塞いでしまえばあの低音に腰をやられてしまうこともない、と安直な脳で考えて舌を差し出した。しかし直ぐさま後悔することとなる。
口づけさえも上手いのだ。中々解放されない唇の淵に受け止めきれなかった唾液が溢れて顎を濡らす。苦しい呼吸器の為の、くぐもった自分の声が遥か遠くに聴こえていた。
酸欠の頭でぼんやりしている私を置いて更に彼は私の身体を開く。強引なのに、寧ろその強引さが、私は彼だけのものなのだと錯覚させる。
膝を押さえる腕はびくりともしない強さで私をこじ開けているくせ、中心の性器に施す愛撫は驚くほど繊細で丁寧なのだ。
快感を堪える痛みなのか、胸がきゅっと苦しくなる。
期待するような抱き方をしておいて、私は彼のものではないのだ。所有物という意味では彼のものなのかもしれない。けれど私が求めたのはもっと暖かな場所だった。
胸を焼くような痛みが何度も私に警鐘を鳴らしている。
泥沼に嵌まるようにただ彼に身体だけを求められ、あるがままに差し出して。しかし彼の心は手に入らない。どんなに優しく抱いてもらえたって、エルヴィン団長の気持ちは私には向いていないのだ。

――なのに、どうしてそんな顔をするの。
恋人でもない私にも、それとも他の女の子にもそんな顔をするの。
優しくてちょっと困ったような愛しいものを見つめている時のような、その表情。
エルヴィン団長のすべてが欲しくなってしまうわがままな私は目を閉じた。
期待してしまうような表情のせいで彼の気持ちまで欲しくなって、でも手に入らなくて哀しくならないように。

「ナマエ、こっちを見て」

「…っ」

閉じたばかりの目を開いて、エルヴィン団長を見た。
恥ずかしいところに顔を寄せた彼と目が合って私はすぐに目を反らした。尖らせた舌で秘豆を押し潰されて、ついに甘い声を上げて絶頂に達する。
満足げに彼は微笑み、自らの性器を先ほどまで弄っていた場所に擦りつけた。

「君があんまり可愛いから。もう…こんなだ。」

擦り寄せるだけの焦らす動作に思わず腰を浮かせてしまう。
そして硬く充血した性器が割り入るようして挿入されてゆく。圧迫感を感じながら無意識に性器を収縮させてそれを飲み込んだ。
はぁ、と深くゆっくりと息を吐いて、エルヴィン団長は眉間に皺を寄せ少しだけ仰ぎながら、しばらく動かなかった。

「ナマエ…君は、俺の、俺だけのものだ。」

そして、彼は腰を打ち付け始めた。
ぎらりと光る、欲に濡れた瞳が私を捕らえて離さなくなる。
そんな言葉がうれしくないはずがない。
両手を別についた彼の肩に手を置いて、揺さぶられながら涙を堪えた。
徐に鎖骨やら乳房のあたりに唇を寄せられ、吸い付かれる。所有印のような肌に咲く紅い花はだんだんと数を増してゆく。
加速する抜き差しに私はエルヴィン団長にしがみついた。そうしないと、どこか遠くにひとり放り出されてしまうかのように思ったのだった。
熱にうなされて、蒸発しそうに熱い身体も頭も快感の上にふわふわと浮いている。

「え、るび…団長…す、き。…好き。」

うわ言のように呟いた言葉は熱の籠ったこの空間に、そのまますぐに溶けてしまうだろうと思った。彼にとって取るに足らないはずのうわ言に自分の全ての思いを託したのだ。
しかし、彼はそれを聞くと直ぐさま私の口をキスで塞ぎ、今までに無いほどに強く、奥まで性器を押し込めた。

「ナマエ、ナマエ…」

口づけの合間に切なく名前を呼ぶエルヴィン団長は、そのまま強くやや乱暴なほどの力で腰を打ち付ける。
そして速度を上げてゆく律動に、快感がひしめいて何も考えられなくなる。
こんなにも余裕のない彼の表情が、きゅんと私の奥を狭くした。
指と指とを絡め合いながらそのままベッドに手をついたエルヴィン団長は絶頂へと、更に私を追い詰めてゆく。目の前が真っ白に弾ける直前に。

「好きだ、愛している」

そう呟いた彼の声は、ずっと耳の奥にこびりついたみたいに忘れられなかった。





20141129 title by ネイビー

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