黄昏に重なる

なによ、人類最強、のくせに、あんなのが避けれないなんて。

「おい、待て。」

「追いかけてこないでください、」

「じゃあどうやって誤解を解かせてくれる。」

「知りません、そんなの。」

夕日が差し込む回廊をただひらすらに、兵長から逃れるように早足で進む。
でもすぐに捕まって、ひとけのないこの回廊の壁に押し付けて睨まれる。なんで私が睨まれなきゃならないの、怒りたいのは私のほうだ。

「あの女が急に、」

「わざと避けなかったんですか。」

「そんな訳がないだろう。」

「じゃあ、なんでっ」

「ナマエ、泣くな。…すまない。」

私はそこでやっと気づいた。私の頬は濡れていて、ごつごつした彼の指がそっと優しくそれに触れる。

「兵長は、いつもああなんですか。」

「何が言いたい。」

「いつもああやって女のひとにキ…」

キス、なんて言いたくない。彼が私以外の女と、なんて自分の口から言いたくなかった。
さっきのことが嘘だったらいいのに、見間違いだったらいいのに。
まだそんなふうに信じている自分が情けない。

「そんなわけないだろ。」

「信じられないです。」

ああもうほんとうに面倒くさい、なにこの女いやになる。
ほんとうはあんな一回のことくらい、リヴァイが謝ってきたときにちょっぴり拗ねて、それからすぐに許せるくらい余裕がある女でいたかった。
こんなふうにわがまま言って、それでもリヴァイが追いかけてくれることに安堵して。なんてこどもなんだ、と自分がいやになって、また、涙があふれてしまう。

「…泣くな。」

「ごめんなさい、私っ、」

「…。」

「兵長がしんじられないとかじゃないんです。」

一度溢れてしまうと止めどなくはらはら落ちてゆく涙を、ひとつひとつリヴァイ兵長は拭ってくれて。その優しさで、また、涙が出そうになる。

「ただ、兵長は、私だけのひとじゃないんだな、って、あらためて分かって、勝手にかなしく、なったんです。そんなこと、前から分かってたはずなのに。」

よくも悪くも、いろんな人の視線につねに晒されていて。
私以外の誰かだってリヴァイのことを想ってどきどきしているのかもしれない。そんなことはあたりまえなのに実際にその現実を目の当たりにするとかなしくて。
それに、こんなふうに泣いてリヴァイを困らせている重たい女みたいな自分が嫌で。

いろんな感情の混じった涙が、やっぱり止まらない。

「バカ言え、俺はお前のもんだろうが。」

「兵長が、すきなんです。」

兵長のくちが ‘わかっている’ というまえに。珍しく心配げに、困ったように歪んだ彼の顔を盗み見て。わたしの記憶を上書きしたくて、くちづけた。
すると、兵長は噛みつくようなキスをかえして。
たったひとこと「好きだ、」と言った。

熱いくちづけが、普段「好き」だなんてストレートに言ってくれない彼に代弁して、すべてを訴えかけているようで、酸欠になりゆく頭のすみで、私の悩みは小さくしぼんでいった。

20140417

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