ふたりでモーニングムーンを

※10000hitお礼
糖度高めかもしれない…






微睡みからふわりと意識が浮上すると、肩口に誰かの寝息が聞こえた。身体に巻き付く腕を見止めて、はっとして後ろを振り向けば人類最強の寝顔。

「え……」

自分の身体を見れば服を纏わぬままシーツにくるまれているし、リヴァイ兵長もまた、ごつごつした肩を惜しげもなくさらしていて、閉め忘れたカーテンから降り注ぐ陽光がそれを照らし出している。
唇がうすく開かれたまま、規則正しい寝息をたてて安心しきったような表情で眠っている兵長は普段とは別人のようだ。眉間の皺もないし、目蓋のたて線も見当たらないし。

え、っと…どうしよう

こんな状況下の割に慌てていないのは、昨晩の記憶が無いわけではないから。それでも、この先のことなんてなんにも考えていなかったから、頭の中で堂々巡りを始めた。



―――――



昨晩ナマエは仕事を終えて、リヴァイのお酌をしていた。強めのブランデーを煽る彼に、量を見ながら少しずつ諌めていた矢先のこと。

「リヴァイ兵長、もうそろそろやめた方が…」

「…るせぇな、最後だ」

はぁ…とため息をついてグラスにブランデーを半分だけ注いで、もうだめです、とでも言うかのようにコルクを閉めた。

嫌なことでもあったのだろうか…とナマエはリヴァイの仕事内容を振り返る。今日は亡くなった部下のご遺族に訪問されていたのだったなと思い出した。いつもそういう仕事の後こんな飲み方をする人ではないけれど、それでも無性に酔いたい気分なのかもしれない。
あまり干渉するのも悪いかと思ってナマエは黙って酒を注いでいた。
リヴァイはコルクを閉めてしまったナマエを睨みつけてグラスを傾ける。そしてそれを机に戻すと相変わらず諌めようとする彼女に対しおもむろに言い放つ、

「ナマエよ…お前も酔ってしまえばいい」

「え、ちょっと、兵長」

ぐい、と強い力で腕を引っ張られ、バランスを崩してナマエはリヴァイの方へ倒れ込んでしまう。
わ、と 彼女が声をあげる前に半ばぶつかり合うように唇を合わせられ、倒れた身体はそのまま抱き止められた。
ぬるりと舌が口内に侵入してブランデーの香りが鼻から抜けてゆく、それだけでナマエは酔ってしまいそうだった。ぎゅっと抱き締められ抵抗もできないまま口づけを受けて暫く。長いキスに苦しくなって、瞳を潤ませたナマエと零距離でリヴァイは囁いた、

「なぁ…このまま、いいか。」






頷いたのは確かに私。

リヴァイ兵長のことが好きだったから、一夜限りのそれかもしれなくても、あんなキスをされてしまえば、首を横に振るなんて私にはできなかった。

でも、相当の量のブランデーを飲んでいた兵長は目が覚めても昨日のことは覚えていないかもしれない。
それに、兵長は遊びのつもりなのかもしれないし、気まぐれなのかもしれない。
…傷つくのは、やっぱり、嫌。
真実を知るよりあやふやなままな方がいいことだってある。

兵長が起きる前に…
するりとベッドを抜けて、床に散らばる衣服を拾おうとした、

その時

「ナマエよ…」

手を伸ばせば届く距離にいるリヴァイ兵長が私の手首を掴んで、引き留めた。私は兵長の顔を見る勇気がなくてどんな顔をして彼が私を引き留めているのか測り知れない。

「あ、リヴァイ兵長……おはよう、ございます」

慌ててシーツで前を隠しながらぎこちなく笑った。

「…あ、あの…とっても良い天気ですね!」

「ああ、」

「だから帰ってお出かけの準備でもしようかなぁ、なんて」

「ナマエ」

「じゃ、じゃあ、私、行きます……」

「おい、ナマエ!」

リヴァイ兵長が口をひらけば、「覚えていない」とか「きのうのことは忘れろ」とかそんな言葉が返ってくるようでこわくて、私は捲し立てるように話し続けた。
しかし彼に遮られてしまえば黙ってしまうしかない。

「何でしょう……、」

「ナマエ、きのうは…」

「……っ」

やっぱり、覚えていないとか言うんだろうな、と思うとかなしくて目の奥がじわり、じわりと熱くなってゆく。…だって強引にキスをしたのは兵長のほうじゃない!と悔しくなって。けれど問われた是非に頷いたのは私なのに、そう割り切ることのできない面倒な女だなぁと頭の片隅で思いながら、こみ上げた涙はとめどなくはらはらと頬を伝っていった。

「…どうした、?」

「っ…、リヴァイ兵長にとっては……なんでもない夜だったかもしれないですけどっ、私には、とても大切なもの なんですっ、」

「…ナマエ、おい」

「忘れろなんて言われても…忘れられませんし、忘れたくないです、」

「…………」

「兵長…、ごめんなさい」

「ナマエ、」

兵長の存外あたたかな手のひらが私の頬に触れた。そして、優しい指先が涙を拭ってくれる。

「ナマエ…なに勘違いしてるか知らねぇが」

「………っ」

「俺も忘れてないし 忘れたくねぇな」

「っ、」

「それにだ、」

「……?」



「一晩だけで我慢してやるつもりもねぇ」

……どきどきして仕方ないのに、たっぷりと間を置いてわざと低い声で言う兵長に今度は胸がきゅうんと締め付けられるように苦しくなって、心臓がとても忙しい。けれど、これで舞い上がってちゃだめなんだと気を引き締めて、甘えてしまいそうになる兵長の言葉にすがらないよう、わたしは最後の防衛線を張る。

「でも…遊びのつもりだったら止めてください、私そんなに強くない…ので」

「……何とも思ってない女なんか抱かねぇよ、」

「…わたし、そんなこと きいてないです、」

「…ほう、そういえば俺も聞いてないな、お前から」

にやり、という言葉にふさわしい表情で顔を覗き込まれて私は逃げ場を失う。涙でぐちゃぐちゃな上に真っ赤に染まっているはずの顔をまじまじと見つめられるから恥ずかしくて。

「い、意地悪…っ」

「……そんな顔とそんな目をするから もっと意地悪したくなるんじゃねぇか、」

「……きゃ…!」

急にリヴァイ兵長の方へ引き寄せられたかと思えば、視界が反転しリヴァイ兵長に見下ろされる形で視線を絡め合わせられた。

「言えよ、俺を 好きだって」

「……兵長もちゃんと言ってくださいね?」

「ああ」

「わたしは……リヴァイ兵長が、好きです…っ」

すると今度はうれし涙をひと粒こぼしてしまった私を呆れたように見つめて、また涙を指先で拭って、

「…俺も好きだ、ナマエ」

と言ってくれたのだった。


20140609 title by ポケットに拳銃

ネタ提供/special thx
ydnさま りかさま より
20140614修正完了

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