その熱源は

ようやく空が明るみを帯びてくる刻に、私はエルヴィン団長のベッドの上で目を覚ました。眠りについてから まだ、そう時間は経っていないと思う。そっとエルヴィン団長の顔を見上げれば、仕事に日々邁進する彼は私を腕に閉じ込めながら穏やかに寝息をたてている。
ぐっすり眠ったままの団長を起こしてしまわぬように腕をほどいて、そろりとベッドから抜けて、簡単に畳んで置いた自分の衣服を身につける。そして、音をたてないように気遣いながらエルヴィン団長の私室を退出した。

熱めのシャワーを頭からかぶって、立ちこめる蒸気を肺いっぱいに吸い込んで。ここのところ胸に抱いている靄(もや)をも洗い流されてしまえばいいのにと思う。
セックスは二週間に一度。団長ってそんなに性欲がないのだろうか…。普通は、とか、他の人たちは、とか気にしたことはなかったけれど 私を強く求めたりしない団長に 不安が過る。

‘…してもいいかな?’
‘君はほんとうに可愛いね’
団長が言ってくれる甘い言葉たちの合間に私ばかりが声や吐息をとめどなく漏らして、快感の波に打ち上げられて苛(さいな)められる。
経験の少ない私に嫌がるようなことはしないし、少しずつ、あの魅惑的な指と唇で私の身体を解してゆくのだ。はじめは、どこまでも優しいエルヴィン団長に 私は愛されているのだなぁと単純にうれしくて、こんなふうに不安になることはなかったのだけれど。
ただ、あくまで理性を保ったままみたいに、紳士的に私を抱く団長は、私とのセックスは気持ちよくないんじゃないかとか、浮気してるんじゃないかとか、とにかくそんなことばかり考えてしまう。けれど、もっと抱いてほしいとか、もっと激しくしてほしいとか、私が言ったら、彼は引いてしまうんじゃないだろうかとこわくて言えずにいる。

敬愛している彼に甘く翻弄されているだけで、私は幸せ者だと思う。けれど心はどんどん欲深くなって、彼のすべてが欲しいと思ってしまうのだ。彼のいろんな顔を見てみたい。たとえば、快感に蕩けたような表情だったり、あの綺麗な顔を歪めて欲に堪える様だったり。

蛇口を捻ってシャワーを止めた。ついでに思考も留めてしまうことにした。
(考えるのは 止そう)
(だってひとりで考えてもどうにもならない)

シャワーを浴び終え、洗い流した不安ごとタオルで拭き取って いつものように兵服を纏い、執務へ取りかかる。



―――――



昼下がりの執務中に、油断したほんの一瞬。ふぁ…と大きな欠伸を漏らしてしまった。
すると、そのときちょうど同室に居合わせたハンジさんが ニヤニヤしながらこちらを見つめている。慌てて欠伸をしたことを詫びようと姿勢を正して会釈した。

「…すみません、」

「べつに謝ることはないさ」

「…………」

「今日はエルヴィンがやけに機嫌がいいし、昨夜は お熱かったんだろうねえ」

「……っ、そんな!」

慌てて否定しようと私は立ち上がって顔の前で手のひらをぶんぶん振った。まったくハンジさんの観察眼には毎度毎度 舌を巻いてしまう。

ところが、

「ははーん、やっぱりそうなんだね」

「う…」

どうやら嵌められてしまったようだ。ハンジさんのからかいも適当にあしらっていればバレなかったものを。私はだんだん顔が熱くなって俯いてしまう。

「…で?エルヴィンて、どんな?」

「え………」

何を聞いてるのさ、ハンジさんってば…!
ハンジさんが聞かんとしていることを解釈して、頭の中は真っ白だ。なんて答えたらいいものかと混乱している私に、ハンジさんは ずいっと詰め寄って鼻息荒く興味津々といった風に瞳を輝かせている。

「優しい?激しい?……それとも…マゾ?」

「え、いや…あの………ちょっと」

まだ真っ昼間ですよね、と私は顔をひきつらせながらハンジさんを諌めようとする。しかし、そんなものは通用しない。

「あ、そうだ。」

…と、ごそごそと自分の懐を探ったかと思えば、手のひらほどの大きさの細長い瓶を取り出して、私に差し出す。

「これ、くっそ旨い酒なんだ。ただ、ちょーっとナマエにはアルコールが強いやつだからエルヴィンにお酌してあげてよ!きっと喜ぶから」

「はぁ……」

ことん、と私の手のひらに置かれたそれは、先ほどまで収められていたハンジさんの懐で温まっていて、微妙な熱を宿している。綺麗にラベルが張られていて、高級品なんじゃないのかと聞くまえに、そそくさとハンジさんは私の部屋から退出していこうとしていた。

「あ!私が君に渡したって言わないでね!」

「え、どうして…」

「いいから!あ、それと…それを飲ませばきっとまたお熱い夜が過ごせるから!健闘を祈る!」

そう言うと、風の如く去っていったハンジさん。
ひとりぽつんと残された私は、‘お熱い夜’って……… と苦笑するも、ほんとうに私たちが‘お熱い夜’を過ごしているのかというのは疑問だなぁと思う。私ばかり一方的に気持ちよくしてもらっているばかりで、エルヴィン団長はどう思っているのか正直分からないし。

でも、どうしよう…このお酒。
団長に聞いてお飲みになるならお酌すればいいか、と判断をお任せすることにしてとりあえず机の片隅に置き、仕事を再開した。






「なぁ…ナマエ、これは誰に渡された?」

兵舎の人のほとんどが寝静まり、日付を跨いだ刻に。エルヴィンは 時間ができたから、とナマエを自室に呼び寄せていた。
彼女が持ってきた酒を、疑いもせず注がせて、美味い美味いと飲み干して。それからエルヴィンは自分の身体の異変を感じ取っていた。今夜愛しいナマエには、まだ指一本たりとも触れていないというのに、昨夜の艶かしく乱れる彼女の姿を網膜にちらつかせながら 身体の中心が頭をもたげはじめていた。

エルヴィンは上がる息を誤魔化しつつナマエが持ってきた酒瓶を掲げながら、誰からの貰い物なのかを訊く。すると、ナマエは目線を泳がせて、「さぁ、誰だったか…」としらを切る。
嘘をついているのはバレバレだとエルヴィンは思いながら、自分の完全に勃ち上がってしまった下半身をどうしようかと考えあぐねた。今すぐにでもナマエの柔らかく熱いその中を貫いてかき回してしまえたら、と渇望する。今までずっと大切にしてきたナマエを、今夜ばかりは乱暴に寝室に連れ込んで ベッドに彼女の身体を縫い付けた。

「エルヴィン団長…?」

突然のエルヴィンの行動に不安げな色を瞳に浮かべて名前を呼ぶナマエ。乱暴に掻き抱いて嫌われるくらいなら、この状況を説明してしまう他ないとエルヴィンは逸る自身をなんとか自制し、ナマエの瞳を熱っぽく見つめて言葉を紡いだ。

「ナマエ…私が飲んだのは恐らく催淫剤だ、」

「え……さ、催淫…剤?!そんな、」

やはり気づいていなかったのか。こんな悪戯に彼女に催淫剤を渡すなどどういう了見だと思いながらエルヴィンは荒く呼吸を繰り返していた。

「私はハンジさんに 美味しいお酒って渡されて……エルヴィン団長、大丈夫ですか?」

はぁはぁと辛そうに呼吸をするエルヴィンを見かねたナマエは、彼の頬に手を添え、どうしたら いいですか、と聞く。
ハンジめ…、ああ…このままだと 欲に任せて彼女を抱くことになってしまう…それだけは避けたい…、そう思っているエルヴィンは 言葉もないまま 頬に添えられたナマエの手を払い除けてしまった。

「団長…」

「やめてくれ」

手を払い除けられたナマエはショックを受けたように悲愴な顔をしていて 心が痛む。だが これは君を守るためなんだと自分に言い聞かせながら、自分で処理をしてしまおうとベッドから離れた。

「待って…エルヴィン団長」

「…………」

「私じゃ…ダメなんですか」

ナマエはどうしても不安だった。このまま薬を飲んだエルヴィンは もっと綺麗で艶やかな女のひとのところへ行ってしまうんじゃないか…と。エルヴィンの腕をつかんで引き留めると、彼はとても恐い顔をしてナマエを見下ろした。

「…君は何を言っているのか わかっているのか」

「………ごめんなさい、でも…他の人のところ 行かないで」

ナマエはうつむいて、思わず謝りながらエルヴィンを引き留めていた。そんなナマエにエルヴィンは怪訝そうに聞き返す。

「ナマエ? 何のことを言っている?」

「だって、団長がくるしいの 女のひとと…えっちすれば治るんじゃないんですか…私じゃ物足りないからって 行かないで……私 がんばる ので」

どうやら根本的にナマエは勘違いをしているらしい。エルヴィンは熱をもて余した身体を余所に考えた。
…だが。そんなことよりも。
ナマエは今晩も抱いていいと言ったのか。それに、がんばるからと言った。それを理解したエルヴィンは自分の中で残っていたほんの僅かだった理性がすべて崩れ去ったのを感じた。ナマエをベッドに押し倒し、息を吸う間もなく唇を重ねてやる。

ああ もう、きついな。
膨らんで勃ちあがった自身はズボンを押し上げて窮屈になっていた。キスを交わしながらベルトを外しジッパーを下げ、下着ごと下ろすと、彼のお腹まで届きそうなくらい勃起し反り返るぺニスが曝される。
息苦しそうにしている彼女の様子を伺いながら唇を離して息を吸わせ、舌を無遠慮に突っ込んで掻き回した。その合間にも 取り出したぺニスを彼女の柔らかな手に触らせ押しつけていた。

「エルヴィン、団長…っ」

「ナマエ……俺は君以外の女を抱きたいとは思わないよ…ただ」

「…………?」

「今夜は大切にしてやれないかもしれない」

いいかい?と耳元で囁いたエルヴィンに ナマエはこくこくと頷いて 彼の身体を抱き締めた。


それからは、あっという間だった。
逸るエルヴィンは上手く服を脱がせずに、そんな余裕のない彼がとても新鮮で愛しくて思わずナマエは微笑みを浮かべていた。ふたりしてベッドの下へ纏っていた衣服すべてをぐちゃぐちゃのまま放り出す。
相変わらず 魅惑的な指と唇がナマエの快感を引き出してゆく。しかし、今夜はそう余裕を見せていることもできないで、エルヴィンは早々にナマエの上に覆い被さった。
ナマエの入り口にぺニスの先端を押しつけて、瞳だけで‘いいか’と訊く。可愛らしい胸をふるわせてナマエは確かに、はやく、きて、と言った。

ぬぷ、と膣口を割って いつもより硬く太いぺニスを差し入れる。ぞわぞわと中で絡み付く襞と、ぐいと広げられぺニスを飲み込む彼女のせまい入り口が割り開く様を凝視してエルヴィンは今までにないほどの興奮を覚えていた。

「はぁ……」

「あっ、ふぁ…おっきい…?」

「ああ…ナマエ、本当に……あまり煽らないでくれ もう…限界だ」

エルヴィンはそう言うと 腰を強く打ち付け始める。相対的に身体の小さな彼女の顔に唇を寄せるために大きな背中を丸めながら 瞳に、鼻に、唇に、キスを降らせてゆく。ナマエは彼の背中をぎゅうと抱き締めしがみつきながら、身体ごと昇天してしまうのではないかという気持ちよさに堪える。
そこで彼女は はっとして、エルヴィンの名前を途切れ途切れに呼んだ。

「え、るび…団長」

「はぁ、……どうした、辛いか」

「私…と、ても 気持ちいいんです、っ…」

「ああ…」

「えるびん団長も 気持ちいい…ですか?」

「ナマエ…、当たり前じゃないか」

ナマエの太ももを抱えるようにして、割れ目がより見えるように律動させる。ナマエの質問にまるで愚問だとでも言うように言い退けてエルヴィンは欲のままにぺニスを最奥の子宮口まで突き上げた。

「君の中は、最高に気持ち良いよ…」

「……よかった」

安心しきったように ナマエは呟くと、一瞬きゅんとエルヴィンを締めつけた。今までにナマエとのセックスが気持ちいいと特別言ったことが無かったかと顧みて、ばつが悪いエルヴィンは、ベッドに手をついてナマエの身体ごと揺さぶるように中の襞ごと抉るように律動した。そして、絶頂を予感させる。

「団長…や、あぁん、もう、わたし、いっちゃう…」

「ああ、俺も…もう、――…っ」

「あの…っ、わたしの…中に…くださっ」

「…ナマエっ、?」

ナマエの突然のナカへのおねだりに エルヴィンは、全くどこまで彼女は自分を溺れさせる気なのだろうと思った。彼女の足が腰に絡められ、逃げ場もなくし、エルヴィンが一気に律動を加速させると、精液を搾り取ろうとするようにきゅうんと狭くうねる膣。ナマエが腰を跳ねさせ甘い声を吐き出しながら 達すると、後を追うようにエルヴィンが彼女の奥に欲を解き放った。


はぁはぁと互いに荒い呼吸を整えている間、エルヴィンは、ずるりとぺニスを抜いた。しかし、薬の効果なのだろうが、大量に射精したばかりだというのに それは未だに硬く膨らんだまま真上を向いている。

「団長…まだ つらいですか…」

ナマエは半身を起こし、ちらちらと恥じらいながら エルヴィンのものを見遣った。交わる前とそう様子が変わらず勃起しているぺニスに、おずおずと手を伸ばし、そっと触れる。すると、びく、とぺニスは反応し、エルヴィンも焦ったようにナマエを止めた。

「っ、だめた、ナマエ…君を汚してしまう…」

「私は大丈夫です……団長は いや ですか?」

暗に可愛い恋人に 自身を愛撫しても良いかと問われて首を横に振れる男がいるものか。
催淫剤を入れられながら、大事にしたいと思っている彼女にこんなにも煽られてどうしたものかとエルヴィンは頭を抱えた。
その間にもナマエはゆっくりと彼自身を扱き始める。

「ぅ…っ、ナマエ…」

「団長…ここは、どうですか」

胡座をかいたような姿勢でナマエに撫で擦られているエルヴィンは時折切なげに吐息混じりの声を漏らした。そして、ナマエはぺニスの下、こんもりと膨れた柔らかい部分に舌を這わせ刺激し始める。その柔らかい部分から裏筋、亀頭へと舌で辿る…
いつもエルヴィンが自分の性器を舌と指で気持ちよくしてくれるのを思い浮かべながら、ぺニスを愛しげに見つめ、形を確かめるみたいに撫で扱いた。

「えらく…積極的で、困るな…っ」

「だめ…ですか」

だめ、ということはないが…、そう言うとエルヴィンは長い腕をぐっと伸ばして、ナマエの尻に手を這わせ彼女の中心へと指を運んでゆく。
くちゅ、と音をたてて其処を弄りながら、彼は続きの言葉を紡ぐ。

「…やはり、ここでイきたい…良いかい?」

ギラと鋭く光る彼の瞳に気づいたナマエは、無意識に下腹部がきゅんとして、中で先ほど吐き出された精液が逆流するのを感じた。
おいで、と両手を広げて待つエルヴィンはどこか子どもっぽくて可愛らしさを覚えるのに、彼の中心はぬらぬらといやらしくテカりながら起立したままで、そのギャップが また たまらない。
ナマエはエルヴィンに跨がるように乗っかって。エルヴィンはぺニスに手を添えてナマエの降りてくる腰に 先端を膣口に宛がう。彼はため息をつくみたいに熱い息を吐き出しながらぺニスが飲み込まれてゆく快感を味わった。

「はぁ…だんちょ…」

「ナマエ…可愛いよ…ああ、こんなにぴんと勃たせて…」

エルヴィンは彼女の身体を片手に抱きしめて、もう一方で手のひらサイズの乳房の、赤く ぴんと張った乳首を優しく弾いた。
そして、ナマエの中を抉るようにゆったりと突き上げ始める。

「あっ…、やん…、はぁ…エルヴィン、団長…っ」

「すごく絡み付いて…っ、…はぁ…いいよ…ナマエ」

ナマエが上になっているぶん、より深いところまで挿入され、彼女が快感にふるふると身を捩らせ震わせる姿にエルヴィンの興奮もさらに昂ぶってゆく。恍惚した表情で性器をぬるぬるに濡らし、ぺニスをしっかり奥まで咥えこんで、エルヴィンにしがみつき爪をたてるナマエが可愛くていじらしくて。
いつもはぐっと堪えて乱暴にならないように律動するけれど、今夜はもう、限界だった。

「ナマエ…愛してる…」

「エルヴィン、団長…っ、ふ、ぁああ…!」

半ば言い訳みたいに、愛をささやいて エルヴィンはナマエの腰を抱え 一気にぺニスを突き立てた。
背中を仰け反らせ、美味しそうな双丘はひくひくと揺れエルヴィンを誘う。そして誘われるままに赤い実を食むとぐちゅぐちゅと甘噛みする。その度せまくなる彼女のナカにすべてをもってゆかれそうになりながら、欲の赴くままめちゃくちゃに律動した。

「はぁ、ん…えるび…エルヴィン、!」

「は、…っ、かわいい、ナマエ…っ、」

結合部から垂れ流しのどろどろが潤滑油となり、ぬちゅぬちゅと卑猥な音をたてながら、浅く、深く、ナマエのナカをたのしむ。
そっと汗ばむ前髪を掻き分けて、彼女の瞳を見つめると、どちらからともなくキスをして。律動にゆれる身体のせいで唇がずれて、互いに鼻に顎に、口づけし合う。
ひょっとすると催淫剤のせいだけではないこの熱は今夜のうちに覚めないのではないかとエルヴィンは思う。それなら、朝まで抱いてしまえばいいかと熱に狂った頭で考えて、そのつもりで2度目の射精を予感した。


20140705

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