幸せ浸透率
豪華な食事と大きなケーキ。
普段であれば絶対購入してくれない高級肉の味を噛み締めた。
一番風呂も許されて、年に一度の特別な日を堪能した。
そんな今日も残り僅か。
日付が変わる前に両親、祖父母、久々に帰省した兄に一言告げて自室へと戻る。
襖を開けたその先で、迎えてくれたのは勉強用の机。
その上に鎮座する貰ったばかりの誕生日プレゼント。
桐の箱に入れられた筆と軸装された直筆の書は祖父母からの物だった。
書道教室の先生らしい贈り物。大好きな祖父からの言葉はこれで大小あわせて様々あるが、誕生日に贈られたのはこれで18枚目。
初めて貰った書は、名前が書かれたものだった。
朝から敷きっぱなしだった布団の上にはカバンと大小の袋。
昼間、友人たちから渡されたプレゼントたち。
布団の上に正座して、貰った物を袋から取り出し一つひとつ並べていく。
昼間、じっくりと眺め倒したそれらの納まるべき場所を決めようと放課後から決めていたのだ。
滝田から貰ったCDは本棚に。
東から貰った枕はそのまま布団の上に。
南風原から貰った鍋掴みは台所に。しっかりと名前を書いて吊るしておいた。
オマケと称して贈られたストラップはカバンにぶら提げ、明日からは登校時の共となる。
残るは、仁科から貰った腕時計。
つい数時間前まで身に付けていたそれは、今はケースに入れられて蛍光灯の光を返す。
「あー、風呂入らなきゃ良かった」
時計を贈る際に、握られた手首。
触れられた所から、気持ちまで伝わってしまうのではと焦ったが、今となってはあの瞬間をもう一度、と求めてしまう。
贅沢で、貪欲な気持ちが次々湧いてくる。
新品の匂いのする枕に顔を埋め、伸ばした両手で時計を撫でる。
鮮やかな文字色も、黄色い文字色もきれい。
秒針が動くことすら面白い。
しばらくはケースの中から出さないことを決め、宝物となったそれを一撫で。
「……へへ」
思わず漏れた笑みは、だらしないくらい緩んでいて。如何にこれが嬉しかったのかを改めて自覚した。
午後の授業も、叫びたいくらい嬉しくて集中なんて出来なかった。
視界に入ってくる水色に気を取られて、二時間分のノートが取れなかった。
こうやって眺めるだけでも胸はいっぱいだというのに。
これを連れ歩くことになったらどうなるというのやら。
外すのにも時間を要したが、再び付けるのにも時間がかかりそうだ。
誕生日を祝ってもらうのは毎年のことだし、その度に嬉しいと感じていたものだが。
今年は例年の比ではない。
「やっばいなぁ」
とっぷりと浸った幸せから抜け出すのは難しい。
明日、友人たちに会ったらどんな顔をすればいいんだろう。
あちこち緩んで、余計なことまで言い出さない不安だが。
最高の誕生日の余韻はどうやら明日も続くようだった。
end
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