鬼は走る
学校に向かうその途中。
徐々に繁華になっていくその道の途中にあるコンビニが俺たちの食糧庫。
「あいら、今日も」
「はいはい」
朝練のない日はだいたいここに立ち寄る。
今日は月曜日、週刊誌の発売日でもあるから、尚更だ。
自動ドアを潜って、ピコンピコンと来客の音。
窓側には俺と同じような考えの学生とか、スーツの人が何人も。
入荷したばっかりなのに、既に読み癖が付けられている一冊を手に取る。
好きな連載は三本。金がないので、今日も立ち読みで済ませてしまう。
コミックスが出たら買うから。と、自分に言い聞かせた。
じっくり読むには時間もなくて、流し見てから今度は昼食の調達。
これも俺らの日課。
飲み物、弁当、部活前のおやつ。それから休み時間にみんなでつまめるお菓子を数点。お茶は真中が美味しいのを出してくれるから、それに合う物を見つけるのが最近の密かな楽しみ。
今日は何にしようかな。
スポーツドリンクと焼肉弁当を抱えてお菓子コーナーをうろついてると、既に会計を終えたあいらが「たっきー、先行っちゃうよ」と急かす。
真中に会いたいからってそう急ぐなよ。
テキトーに選んだスナック菓子。
それを腕の中に加えてレジへと向かう。
レジのカウンターの向こう側。
この一年、ほぼ毎日顔を会わせたおかげで、世間話をするくらいには親しくなった。フリーターだという彼女はいつも笑顔できれいな声をしている。
朝一で俺を癒してくれる美人さん。
そんな彼女の顔が、今日はどこか暗く見える。
彼女だけでなく、隣でレジを打つおばちゃんの表情も、なんだか冴えない。
「今日、元気ないね」
「うん、ちょっとね」
声を掛けてもやっぱり歯切れが悪い。いつもなら向こうから二言三言返してきてくれるのに。
なにか嫌われることでもしたのかな。
あいらはなにか覚えているだろうか。
俺よりも遥かに頭の良い幼馴染聞こうとしたら、奴は携帯を見ながらニヤついていた。
あいつの表情を崩す奴なんて、そうそういない。
なにがどうあってそんなことになったか、ちょっと考えたくない。
女の子との交流が減ってしまったことに小さな溜息が漏れたのは仕方ないことだろう。
毎朝の「頑張って」が地味に活力だったのに。
ちぇ、っと拗ねた気持ちで視線を横に投げると、そこにはお特用のシールが張られたコーナー。
レジ横のワゴンの中。
即席で作ったようなポップと一緒に鬼のお面と色んな種類の豆。
そっか、今日は節分か。
「あ、これも」
これならお茶にも合うし、腹も満たされる。
余ったら部活後のおやつにすればいいんだし。
育ちざかりなせいか、最近、腹が減って仕方がない。
無作為に一番大きい袋を選んで会計途中のレジにそれを置く。
「ありがとうございます!」
すると、なぜか感謝の声。
「どう、いたしまして?」
何故感謝されたのかなんて分からなかったけど、さっきまで不安そうだった彼女の表情が明るくなった。
嬉しそうに綻ぶ笑顔。これが見れたのだから、まあ、理由とかその他諸々はどうでもいいか。
じゃあ、いってきまーす。
これまたいつも通りの声を掛けて、手を振ると控えめに笑った彼女が小さく手を振る。
あー、やっぱり女の子って可愛い。
自動ドアの外に出る頃には、現実に戻ってきたあいら。
男二人、肩を並べて登校再開。
「あれって、発注ミスだよね。あんまりにも哀れで買っちゃたよ」
「なにが?」
珍しく、なにかを気にしていた幼馴染は、いまさっき出てきたばかりのコンビニを指し、告げる。
なんのこと、と首を傾げるけど、彼女の百面相の訳を知るのは、それから数分後のこと。
見事に被ったおやつに「豆ばっかりかよ」とみなみが嘆くのは、それから数時間後の出来事。
end
PREV | TOP | NEXT