発気揚揚 セブンティーン





 国立目指した地区予選。
 奇跡か努力の賜物か、死に物狂いでやっていたら準決勝までこぎつけた。
 それも今週末に迫る中、士気高まるチームメイトたちと朝練にあけくれる。
 吐き出す息が白い。
 もう冬が間近に迫っていると実感する。

 今日もひと汗かいて、部室で友人たちや後輩と一頻りじゃれあった。
 カバンの中に入れっぱなしだった携帯。チカチカと光る緑色のライトは着信の証拠だ。
 ラインの通知が数件、届いていた。
 内容は、日付が変わった頃から一様の物が並ぶ。
 その一つひとつへ丁寧に返信する。
 彼女でも友人でも、ちょっとした知り合いでも親でも変わらない。
 丁寧なところが、滝田がもてる所以でもある。

 

 部室を去り際、マネージャーから貰ったお菓子を二度目の朝食代わりにしながら自分のクラスを目指す。
 いつも一緒に登校する幼馴染は今日は置いてきた。
 朝練がある日は電車の時間もずれる。
 一人暮らしをする仁科のため、一応気を遣ってやったのだ。
 暫くは真中と一緒に通うことになるのだろう。
 そのことを尋ねるとここ数ヵ月の間ですっかり見慣れてしまった柔らかい笑みを返す。
 気持ち悪い。そんな単語が浮かんでしまったが、小さな時から一緒に肩を並べてきた彼があんなに幸せそうに笑う姿なんてそうそう見れるものでもない。
 良い変化がもたらされているのであれば、多少の障がいも悪いものではないのかもしれない。
 恋愛は、ドラマチックでロマンチックである方が素敵に思える。
 彼らを見ているとその考えは間違いではなかったと改めて認識したことでもある。
 だからこそ、どんな出会いや人の縁も大切にしておきたい。
 軽いやつだとよく言われるが、それはきっと見た目だけの判断だ。
 実際自分の頭の中を開いて細かく整理と分析をすれば、欲張りという結果に行き着くはずなのだから。

「じゃあ、確認な。おれがせーのって言ったら、たっきーおめでとー、な」
「なんで三組のおめーが仕切ってんのよ」
「おめーよりたっきー愛してるからだろ」
「だったら仁科にやらせんのが筋だろうが、幼馴染なんだろ」
「いや、俺は真中の時にやらせて貰うから、今年はみなみに譲るよ」
「ほらなぁ〜」
「おはよー」
「そのドヤ顔すげー腹立つ! 東、おめーはいいのか!」
「だって、細田よりみなみの方が上手く仕切るじゃん」

 昇降口から階段を上がり、担任たちが集う職員室を通過して朝から騒がしい教室に入る。
 教卓を囲んで友人たちは話し込み、滝田のためのサプライズを用意してくれていたようで、その本人が来たことにも気づいていない。

「おはよ、滝田」

 気付いてくれたのは、自分の席で宿題を写す真中だけだった。

「なにやってんの、あれ」
「滝田争奪戦。愛されてんね」
「おー、存分に愛してくれて構わないよ」

 真中の隣の席に座り、しばらく言い争う友人たちを眺めていれば、遅れて入ってきた女子が「滝田、ハピバー」の言葉をくれる。
 そこでようやく気付いてくれた友人たちは、ひどく驚いた表情を浮かべていた。
 サプライズをするのなら、廊下の見張りも立てて置くべきだったのだ。
 とはいえ、仁科がそのことを忘れるとも思えない。
 おそらく、気が付いていて敢えて黙っていたのだ。そのことに気付いてしまう滝田自身も嫌な奴だ。そう自覚する。

 ノートを写すのを終えた真中と一緒にその輪に加われば、教卓の上には滝田に宛てた贈り物の数々。
 菓子類が主なのは、11月11日というこの日付のせいだろう。

「俺トッポ派だって言ったじゃん」
「用意してるよ、一本だけだけど」
「ケチくせぇ」

 地方限定のものからファミリーパック、プロテイン、CD、コスモス、と贈り物は様々だ。

 
「なぜコスモス?」
「来る途中に見つけてさ。似合うよ」
「……ありがとう」

 さらりと言い放つ南風原。男前な彼に花が似合うと言われるのはなんだか照れくさく感じるが不思議と悪い気はしない。
 登校途中に摘んできたらしいそれは、すでにくったりとしている。
 あとで水に浸けてやろう。花瓶は今朝買った水のペットボトルで十分だろう。

「本人来ちゃったけど、言わなくていいの?」
「えー、もう大分ぐだぐだだけど」
「俺、まだ祝われてなくない、言ってよみなみぃ」

 少しだけかわい子ぶって要求すれば、仕方がないと威張る南風原。
 東に押されて教壇に立てば、クラスメイトの視線。その殆どが此方に向いていたことに気付く。

「あ、これ、途中参加も有りだから」
「え?」
「じゃあ、まず祝いのポッキーゲームを行います。ギョージは私、東が行います」
「は?」

 想像していたものと異なる展開に、思わず尋ね返す。
 すべてを知っている筈の仁科や真中はただニヤニヤとした笑みを向けるだけ。
 ただ、対面する南風原がひどく真面目な顔で滝田の肩を掴む。
 唇に、ポッキーを銜えて。

「ちょっと待って、これ俺の誕生日だよね?」
「うるへー、ほら、口あへろって」
「やだよ!」
「そういうなよ、たっきー。みなみもちゃんとサービスしてくれるってさ」
「じゃあ、あいらがやれよ」
「ごめん、初めては好きな人って決めてるから……」
「おいこら、あいら、ふざけんな!」
「滝田、男ならぶつかって行けよ」
「それでは見合いましてぇ〜」

 意外な真中の一言に、行司役を買って出た東の声が重なる。
 向き合う南風原の目は、未だに真剣だ。

「はっけよ〜い、のこった!」

 合図とともに突っ込まれた棒菓子。覚悟を決めてぎりぎりのところまで食い進めるも笑ってしまい、ゲームは中断。
 誕生日開催のチキンゲームは滝田の負けだ。
 ゲームはこれでおしまい、と思いきや。

「ストップ、ストップ! もう負けてんじゃん!」
「やだぁ、たっきー。ミズキの愛が受け取れないって言うのぉ」
「いやいやいや、十分受け取りましたから」
「つべこべ言わずにおれらの愛だ、男なら素直に受け取れ」

 今度は両頬を捕まえられた。
 数センチもない残りを銜えた南風原が、愉快げに笑っているのが見えた直後、

「ちょっ、……〜〜っ!」

 教室内に濃厚な罰ゲームを受けた滝田の断末魔が響いた。
 詳細は割愛するが、その直後ぐったりと教卓倒れる滝田の姿から察するものは多い。
 今日も変わらずうるさい彼らを、教室内にいる生徒たちは「ああ、今日もあいつらやってるな」と見守り、中には野次を飛ばす者もいる。
 
「たっきー、私ともやろーよ」
「だめー、次はオレとだよ」
「ごめんね、滝田の唇もそんな尻軽じゃないんだよ」
「真中がクチビルって言うとなんかやらしーね」
「え?」
「なぁ、お前らさ、大事なこと言ってねえんじゃね?」

 滝田しんでるけどさ、と外野からの言葉に親友たちは「あ!」と今更な声を上げる。

「もう大分ぐっだぐだだけど?」
「それでもちゃんと言葉にすることが大事だってじいちゃん言ってた」
「そっか。じゃあ、せーの、」


 南風原の合図と共に複数のおめでとうが重なった。


End


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