"転校するの。"そう彼に伝えたのは、IH予選終わり頃。
部長にとって色々大変な時期なのにそんなことを伝える私は酷い女だと思われたかもしれない。


そして夏休みは、彼氏である大地はバレー部の合宿だと言ってすぐに東京へと行ってしまっていて帰ってきたのは昨日である。
今日は大地と最後のデートの日。
初めてのデートに着ていったスカートを履く。
かわいい、と笑いながら言っていた大地の笑顔は昨日のように思い出される。

さっき何故、最後と言ったのかというと、今日、私は大地に別れを切り出すからだ。
18歳、高校三年生という大人でも子供でもない位置に立っている私にとって、遠距離恋愛という選択肢はきっと不正解であろう。
大地には私より相応しい人がいるはずだ。
だから、別れるのだ。



いつも通りの場所、いつも通りの時間で待ち合わせをした私たちは今までと変わらないように笑いあって楽しく過ごした。

「今日はありがとう」

「どうした。急に改まって」

「あのね…、別れよう?嫌いになったわけじゃない。でも、遠距離恋愛なんて私にはきっと無理なのごめん」

泣くのを我慢していたが、多分目には涙が溜まっているだろう。
そんな私の顔を見て大地は辛そうな顔をする。
ごめんね、ごめん。そんな顔しないで。

「大地には私よりもいい人がいるよ。今までありがとう。さようなら」

大地に別れない、なんて言葉をかけられてしまえばきっともうむりだと思う。
お願いだから、別れて。

「俺が負担になっちゃうなら別れるしかないよな、こちらこそ今までありがとう」

そう笑う大地は、今履いているスカートを褒めてくれた笑顔とはまた違う笑顔だった。

「じゃあね」

「じゃあ」


私が宮城を旅立ったのはそれからしばらくした、蝉の鳴き声が少しだけ小さくなった8月の終わりのことだった。
あの日のスカートを握りしめ、飛行機の中で泣いていたのはきっと誰も知らない。


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