菅原先輩とのディズニーデートが楽しみ過ぎて、昨日はよく眠れなかった。
実は好きなんだよねー、照れながらそう言っていた菅原先輩がかわいらしくて、この夏休みに一度、遠く仙台から行こうという話になった。
高校生には東京までの交通費も、入園料も、決して安いものではなく、だからこそ待ち遠しくてたまらなかった。

菅原先輩が大好きなディズニーだから、ちょっと普段よりはしゃいだ彼が見られるかもだなんて考えていたのが悪い。目の下のクマを見て昨日の自分を少し呪いながら、最寄りの舞浜駅に向かう。
彼は猫駒の友人に会うために前日から東京に来ている。
本当は新幹線から一緒にいたかったのだけれど、あとでバレー仲間の話をニコニコとする先輩を見るのも悪くない。

「混んでると思うから待ち合わせ難しいよ、ここならたぶん会えるから」

前もって教わっていた場所に足を運ぶと、ラフな格好ではあるけれど、先輩らしいきちっとした服装の先輩に出迎えられた。

「ごめんなさい、待ちました?」
「いーや、今来た。ちょうどいい電車なかったから」

へにゃりと笑う先輩の笑顔を見ているとそれだけでほんとうに幸せだ。

夏休みのディズニーランドはやはり混んでいたが、思っていたよりは早く入園できた。

「なまえ、何か乗りたいものある?」
「私、あんまり詳しくないので、先輩の好きなやつに乗りたいです」

なんでもいいは相手を困らせるとわかっていても、よくわからないものはわからない。
先輩はうきうきと地図を眺めてどの順番で回ったら効率がいいだとか、ファストパス(?)を取りに行こうだとか、あまり聞きなれない単語を使いながら私を案内してくれた。

ようやく慣れてきた「手をつなぐ」という行為も。ディズニーの雰囲気でいつもより特別なもののように思える。
ファストパスや混雑状況のチェックなどを駆使して、数時間のうちに10もアトラクションを楽しむことができた。
慣れているわけではなく、たくさん下調べをしてくれたのだと聞いて、忙しいバレーや勉強の合間にそんな時間を作ってくれたことに感謝しっぱなしだった。

「なまえも楽しめたみたいでよかった」

自分だけが楽しかったら意味ないだろー?
さわやかに笑う先輩がまぶしい。
レストランも、アトラクションも、自分が物語の主人公、ヒロインのような気分にさせてくれて、私はとても気分がよかった。
日の長い夏とは言え、日もだいぶ暮れて、あたりは暗くなってきた。
今日中に宮城に帰らなくてはならないから、最後にシンデレラ城を見に行こうということなって、そちらへ足を運んだ。
夜のシンデレラ城は少し人が多くて、手を握る先輩の力が少し強くなった気がした。

人だかりができていて、何だろうと耳を傾けると、
公開プロポーズの真っ最中。
見事okをもらえて、あたりは拍手と歓声に包まれた。
もちろん私たちも拍手をして、幸せそうに去っていく二人を見送った。
温かい空気の中、先輩がもう一度私の手をつなぎ直してくれた。

「いいもの見ちゃったね」
「ねー。幸せのおすそわけですね」

今日は本当に幸せでした。まるでお姫様みたいで。そう伝えると先輩の顔がきゅっと引き締まった。
どうしたんですか?と聞くとさらに真面目な顔をされた。

「あのさ、」
ぽつり。
「なまえは俺のお姫様だからさ、今、ここでキスしてもいい?」

言葉に詰まって目を泳がせる私を見て優しく微笑み、先輩のきれいなお顔が近づいてきた。
後頭部に添えられた、普段はボールを扱っているごつごつした手が温かくて。
いい?ともう一度尋ねてきた先輩にただひたすらにうなずいてキスを受け止めた。シンデレラの魔法は、きっとこのお城を後にしても、かかったまま。


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