どんな会話が繰り広げられているのか。視線がどこを見つめ流れていくのか。観客席からじゃ何もわからないし、聞こえない。彼の横顔が見えたとき、私の胸はキュウと締め付けられる。点数を入れたとき、私の鼻はツゥンとした。彼の瞳は観客席には向けられない。ボールとセッターと仲間の視線。対戦チームの動きを追っているから。彼の五感は何時だって、私以外の人に向けられている。悲しいけれどそれが現実。

たぶん、彼が私を視界に入れたところで、及川くんのファンの一人としかカウントされてないのだろう。知らないだろうけれど、花巻くんや松川くんのファンの子だっているし、岩泉くん、あなたのファンの子だっているんだよ。ただ、及川くんのファンの子達のキャラが濃いだけ。

叶わない恋でも、人間頑張ってしまうらしい。恋をしている人は素敵だというけれど、どうなんだろう。化粧をしたり、ムダ毛の処理をしたり、甘いお菓子を控えてみたり、流行ばかり追いかけたり。それって素敵なこと?外ばかり磨いて楽しいのかな。背伸びをして、カワイイね。素敵だね。って言われたいのかな。好きな人と結ばれちゃったらそれで終わりなのかな。ネガティブ思考の私は、ちょっと卑屈になってしまう。それでも、岩泉くんが見てくれるのなら、私は……。

「岩泉!」
「おう!」
今日一番の大きな声。それまでも声を出していたけれど、今のは不思議なくらいハッキリ聞こえた。
試合観戦中にも関わらず、私は自分の膝を見ていたらしい。
パッと頭をあげると岩泉くんが跳んでいた。
大きく腕をふって、重力という鎖を引きちぎる。
ゆっくりと宙に上がっていく。
羽根なんてない。
そんなもの、無いけれど。私の目には、岩泉くんが飛んだように見えた。
大きく腕を振り上げておろす。
すべてが、スローモーション。
ボールに掌が当たって、体育館の照明に指先がきらきら、と光る。
うっすらと開いた唇から息遣いが聞こえそう。
ブロックを打ち抜いたボールか、岩泉くんの爪先が先に床に降りたのか。ボールに反して、静かに降りた岩泉くんを歓喜の叫びが祝福した。
笑顔の及川くんに肩を叩かれて、振り返った岩泉くんも笑っている。
ツゥンと鼻が痛くなった。

ああ、なんて不謹慎なのだろう。
岩泉くんが点数をとったという事実ではなく、あの笑顔が欲しいなんて思って、苦しくなるなんて。これが、憧れなのか思慕なのか。友達には抱きようのない感情に、私の涙腺は決壊寸前だ。
「すごいなぁ」
それは乙女心なのか、これ程までに魅了してくる岩泉くんになのか、釈然としないけれど、言葉にするだけで、私の鼻は、またツゥンとした。


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