私、てつのこと、嫌い。
最近よく言うようになった言葉。本当はてつこと幼なじみの黒尾が嫌いなわけがなく、むしろ恋愛感情を抱いている。でも、私はてつに恋をしちゃいけなかったらしい。
私はてつのことが好きだけど、てつは私のことがどうやら嫌いらしくて。はっきりと言われてしまった“近づくな”という言葉。言われたその日は悲しくて悲しくて、ベッドの上で泣きじゃくった。泣いて、泣きはらして、ようやく決心がついて。
私は、てつと話さなくなった。
別にいい。私がどれだけてつを好きでいようと、てつが私のことを好きになってくれることはないのだから。ならば、ゆっくり、時間をかけててつへの思いを忘れよう。そうしてまた、幼なじみとしててつの隣で笑える日を待とう。そう決めた。
だからまず、てつと、それから研磨と一緒にいる時間を減らした。最初のほうは研磨が心配してたけどそれもいつかはなくなった。そうやって初めて両隣が空っぽなままで過ごした中2の1年はとても寂しかった。
でもそれが1年、2年と続けば慣れることだった。現に私はそんな関係のまま高3まで過ごしてきた。
だけど最近変わったことが1つある。それは研磨。この頃研磨がよく私のところに来るようになった。まぁ研磨なら避ける理由もないので普通に接しているのだが。
それにしてもどうして急に、と以前聞いてみたところ、別にとだけ答えられた。他にもてつはいいのとか、クラスで友達はいないのとか、言いたいことはあったけど言わなかった。だって、研磨といて嫌じゃなかったから。

「なまえもクロも、思い込みが激しい」
「何で?」
「もっと、お互いのことをよく考えればいいのに」

そう言って研磨はじゃあねと去っていった。どういうことだろう。思い込みが激しい、とは。研磨の思考回路はつくづく読めないなぁ。
それから数日後のことだった。
今日は体調が悪かった。所謂女の子の日でお腹が痛くて痛くて仕方がない。授業受けるの辛い。友人に保健室に行けと促されてのそのそと歩いてきた。
保健室の中に先生はいなかった。だけどカーテンが閉まっている箇所が幾つかあるので寝てもいいのだろう。ああ、痛い。きつい。
とそこで先生が来た。寝ます、とだけ伝えて開いているベッドに向かう。ぼふ、とギシ、という2種類の音を聞きながらベッドに倒れこんだ。やっぱり横になると大分ましになる。

「なまえ?」

……なんて考えるのも束の間、どうやら私は最悪の状況に置かされている。だって、隣にはあの、幼なじみの片割れがいるんだもん。しかも起き上がってきた。

「どうした?」
「お腹、痛くて。黒尾はサボってないでちゃんと授業受けなよ」
「いいだろ、お前には関係ねえよ」
「そう、だけど……」

だけど。だけど何だろう。この状況を拒否する理由は。私と黒尾が一緒にいちゃいけない理由、なんだっけ。とか冗談めいたことを脳内では考えているけど口は勝手に正しい答えを発していた。
だって黒尾が、近づくなって、言ったから。は、いつ。中1の春休み。うっわ、懐かしいな。
5年前じゃねえかよ、と言いながら黒尾がボフン、ベッドに沈んだ。中1かー、クリスマスの花火はすごかったな。中1というとても懐かしく、私の中で輝きを放っている話題が出てきた。たしかあれだ、

「黒尾が研磨のプレゼント駄目にしちゃったやつ」
「うっせ」

あの日は私の家でクリスマスパーティーをしていて、何故かお母さんが物置から花火を持ち出した。使わないのも勿体無いし、今からやろうと言う母に賛成してすぐさま庭に飛び出たのだ。
その年、研磨は欲しかったらしい新発売のゲーム機を買ってもらっていて、大層機嫌が良かった。外に出るときもゲームを持ち歩いており、よっぽど気に入ったんだと微笑ましく思っていたときだった。

「研磨!!ちょっ、そこどけ!!」
「は、え、ちょ、」

突然背後に現れた黒尾は大きなバケツを持っていて、そこには大量の水も入っていた。男子と言えど中学生、片手で持つのはキツかったらしい、耐えられなくなって黒尾はバケツの水を研磨にぶちまけた。
そして、運悪く動けなかった研磨は真冬の空の下でずぶ濡れになり、クリスマスプレゼントのゲームも壊れた。そのあと2週間くらい黒尾が話しかけても研磨は無視しつづけていた。

「研磨が可哀想だった」
「だから掘り返すなっつーの……」

降参、と言ったように自身の体をベッドに投げ捨てた黒尾。そして両腕を後頭部の辺りで組んで、こちらを向いた。
おもむろに開けられた口から聞こえたのは一言だけだった。

「俺はお前のこと、嫌いじゃねーから」


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