ねえねえ、こんどはなにする?

 こんどはかくれんぼしようぜ!

 でもわたしすぐみつかっちゃうよ

 じゃあいっつもよりながくまってやるから。それでいいか?

 うん!





 戻ってきた。

あれから、あの時から大体10年は経ったろうか。私はこの町にまた戻ってきた。高台からあのときの神社が見える。あそこであの子とかくれんぼしたのが、すごく印象的だったのだろう。10年の間のいたるところでその記憶は私のもとへ戻ってきた。

楽しかった、それもあっただろうけど、それよりは罪悪感が勝っている。だって私はあの日、いつものようにあの子とかくれんぼしていた日、本当に何も言わずに勝手に帰っちゃって、そしてそれから一度だって連絡もとっていないのだから。

「ごめん龍ちゃん」

私はこの町に住んでいたわけではなかった。弟のお産でお母さんが入院している間、祖父母のところで預かってもらっていただけで、それがこの町だった。祖父母の家で退屈をすると、よく近くの神社に行ってひとりで探検ごっこなんかしていた。あの子と出会ったのも、その神社だった。

子供というのは驚くほど毒がなく子供同士で身構えたりしないものだ。最初のへんは多分互いの名前も知らなかった。それでも仲良くなれたのだ。当然そのうちには名前で呼ばないと不便だから、いつからか「龍ちゃん」「なまえ」と呼び合っていたが、その男の子が果たして本当に「龍」という名前なのかも定かではない。「龍太郎」だったかもしれないし、勘違いがひどかったら「ゆう」とか「しゅう」とかだったかもしれない。それくらい曖昧な記憶だった。

そして、この町に定住しているわけではない私は、弟のことが落ち着いたら当然両親のもとへ戻らなければならず。ただそれだけならばまだよかったが、悪かったのは私だ。

多分、寂しかったから。また明日って言えないのがつらかったから。だから、私はたぶん、龍ちゃんにそのことを言えなかった。もう元の家に帰らないといけないから、とは言えなかったのだ。

でもそっちの方がよっぽど残酷だ。ましてやかくれんぼの途中で帰るなんて。龍ちゃんはすごく勇気があって正義感も強くて、美化されているだろうが今の私からしても男前というにふさわしい、そんな子だった。きっと私のことを必死に探してくれたに違いない。そういえば私は、どこに住んでるのかとか、家の都合のこととかも一切話した覚えがない。町中探してくれたかもしれない。

日が傾いてきた。町が夕焼けに染まる。これも懐かしい景色だ。

足音がした。二人、真っ黒なジャージを着た男の子が高台の階段を走ってのぼってくる。部活かな、大変。

「ああーっ、やっと上まで着いたぜ!」

「ったくキツいなー、でも俺のほうがちょっと早かったな!」

「そりゃちげぇよ!俺の方が微妙に早かった!」

やはり何かの部活みたいだ。見覚えのあるジャージ。強豪チームならば見たことがあってもおかしくはないが、そういった場面での見覚えはないように思える。もっと昔、昔のこと・・・

「あ、そっか。」

あの子が、かっこいいってよく言ってたんだ。夕方まで二人で遊んで、そしたらちょうど部活帰りの高校生が通って行ったりして、それを見てかっこいいって言ってたんだ。また懐かしいものを見た。

ということは、あの子たちは私と同じ高校生なんだ。(何年生かはわからないけど)

もしかして、龍ちゃんのこと知ってないかな。そんなこと思ったけど、なんだか色々とおかしい気がした。

もうこんな時間だし、帰ろうか。そう思って高台を降りようとしたとき。

「おいっ、ノヤっさん。じょ、女子、女子がいたぞ!」

「マジだ!気が付かなかったぜ!!」

「えっ、しかもなんか可愛い気がする!潔子さんをちょっと幼くしたみたいな感じがした!」

「うおお!マジか龍!俺も見たい!追いかけるか?龍!!」

龍。龍?

「あの、さっき・・・」

振り返ると、目前に迫っていた二人とばっちり目が合った。

「あああああ別に不審者とか!不審者とかじゃないですすみませえええん!!」

「わりぃ!!!びっくりしたか悪い!泣くなよ!泣いてくれるなよ!?」

確かにその瞬間にもびっくりはしたけど今の高速懺悔タイムの方がまくしたてるみたいで怖い。とりあえず、聞いてみようか。

「あの、別に全然かまわないんですけど、龍って、さっき言ってましたか」

すると、頭をぶんぶん下げまくっていた二人の動きがピタリとやんで、小さい方の人が、

「お、おう・・・言った。こいつ、龍」

そう言ってピッと横の坊主の人を指さした。その、困惑した表情か、少し顔をこわばらせている男の子。この表情、見たことある。多分あってる。その確信が不思議と持てた。でも、もし知らないって言われたら。

「あの。・・・・・私、なまえって、いいます。覚えてますか。」

一瞬、いぶかしむような表情。そしてそれが、じわじわと驚愕の表情に変わっていく。

「・・・なまえ」

「はい。えっと、龍ちゃん?」

横で小さい子がふきだした。それを龍ちゃんは横目で確認して軽く頭をはたいた。

「・・・・そう、だぜ。お前・・・・」

「ごめんなさい。あのとき、いなくなって」

「・・・・ほんと、それに尽きる・・・・・・でもよ、悪い、俺も早く見つけりゃあよかったな」

夕日色に染まった高台で久しぶりの再会を果たした幼馴染、その人は今もなお想い出のままだった。いつも私をかばってくれたんだった。

「えっと、じゃあそれじゃ俺、あの、練習に戻って、」

「アホか!」

「ぐほっ」

小さい人、ノヤっさん?が龍ちゃんに蹴りをいれた。

「龍!お前マジ不器用だな!そこは積もる話の一つや二つしろよ!そんで初恋を成就だ!!」

説教じみた感じでまくしたて、最後は爽やかな笑顔でぐっと親指を立てている。龍ちゃんもそれにつられるように親指を立てて、

「おお!さすがノヤっさんだぜ!!!積もる話をして初恋を成就・・・・ん?おおお!!??ノヤっさん何勝手に初恋とかばらしてんだよちくしょおおおお!!!!」

「悪い!龍!先輩たちにはうまく言っとくからよ、まあ勘弁だ!じゃあな!!」

とんでもない事実を残してノヤっさん(確信)は走っていった。残された幼馴染たちはというと、

「あー、あのぉー、あれだよな、あれ・・・・積もる話・・・・しますかね・・・・・?」

それぞれの初恋を自ら語らうことになるのは、もう少し後の話。


うろ覚えの愛し方でもよかったら
(町中泣きながら探したとか、姉貴に「大事な子がいなくなった」って言ったこととか、絶対に言えねぇ)


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