カップル限定のスイーツを食べるべく、私は旭を無理矢理連れて外を出歩いていた。それから数分しか経っていないのだけれど。

「ほんと悪かったねえ、ごめんごめん」
「あ、いえ!いいんです!俺こそすいませんでしたっ」

毎度の事だが、ぺこぺことお巡りさんに頭を下げる彼の背中は、正直言って本当に見ていられない。眉間に寄りつつある皺を指で伸ばしながら、私は「旭、」と名前を呼んだ。

「もういいでしょ。行こうよ」
「あ、うん、そうだな。じゃあ、ほんとすんませんでした!」

なんで誤解された方がそんなに謝るのよ!一礼しながら「いえいえ〜」と去って行くお巡りさんをじっとりと見ながら、歯を少し噛み締める。なんであんたはそんなに軽いのよ!苛々とする私の方へ、ほっとした顔で戻って来た旭の背中をばしんと叩いて曲がった背筋を戻してやる。「いたっ!なんだよぉ…」情けない声。

「も〜、しっかりしてよ。やぁよ私、こんな情けない人が彼氏なんて」
「か、彼氏って…役だろ!?」
「役だとしても!彼氏ならもっとびしっとして!びしっと!」

そう言うと旭はうーうーと呻いて、いつも曲げている背中意識的に伸ばす。うんうんいい感じよ旭。いい感じ。中身とは裏腹に逞しい腕に私の腕を絡ませて、わざと少し横に揺れながら歩いてみると、「お、おい!歩き辛いだろ!」なんて焦った声。あー、昔は可愛かったのになー!男になっちゃって。ちょっとしんみりしちゃうけど、でも嬉しくもある。大きくなったなあ、なんて。

「あーさひ、」
「ん?」
「さっさと彼女作って私に紹介してね」
「…何言ってんの」

眉を下げて微笑むその笑い方は、小さい頃から全く変わらない。足を大きく上げて、地面を蹴るとかつんとヒールの音が聞こえてなんだか楽しくなってきた。かつんかつんかつん。「#名前#ちゃん旭の彼女見たいなあ、どんな子かなあ」笑ってそう言ってみると、今度こそ困った顔で旭がこちらを見下ろして来る。

「…俺の彼女はなまえだろ」
「役でしょ」
「役でも!」

さっきと逆になってしまった。どうしてこんなに必死な顔で言って来るのだろう。旭なんか変だね、そういう時期?なんて首を傾げると、やれやれといった様に旭はため息を吐き、首を横に振った。ちょっとむかついたから腕は絡めたままで肘を彼の横腹目掛けて突いてやる。「ぐっ…」痛そうに呻く旭。思ったより強過ぎたらしい。恨めしげにこちらを見て来る彼に、ごめんごめんと笑ってやると、唇を尖らせて「乱暴なんだから」とぶつぶつ文句を言い出した。

「旭が私の事馬鹿にするのが悪い」
「なまえがいつまで経っても気付かないのが悪い」
「何に?」
「さあね」
「何に!?」
「さあね!あ、ちょ、いたっ、肘!肘痛ぇって!」

ごめんごめん、と謝る旭に「じゃあ教えて」と言っても教えてくれない。こうなると多分私が自分で気付くしかないのだろう。案外頑固な男だ、この東峰旭という男は。何に気付いてないんだろう…、と考え始める私を見て旭は、はは、と笑い声を漏らしつつ「そんな簡単に気付くなら俺も楽なんだけどなあ」なんて勝手な事を言っている。調子に乗ってるなこの男…。

「旭、ヒント」
「なしなし、頑張って」
「意地悪!」
「そう?」

初めて言われた、そう笑う旭の顔は随分と優しい。「意地悪だよ」頬を膨らましもう一度言ってやると「すっげえまん丸」と笑う旭の声が何故か心地いい。ヒールがかつんと音を鳴らした。


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