はらはらと、はらはらと。桜の花弁が舞っている。なんて、ありきたりだなあ。
今日は、私が3年間通い続けてきたここ、青葉城西高校の卒業式があった。
卒業、というたった2文字のことは、全然実感が湧かなくて。あっという間に終わった式もHRも、思ったよりさっぱりしていた。
私はもう、進学先も新しく住む場所も決まっている。なのに、未だ現実味を帯びない。
けれど、私の級友達は現実を実感しているらしくそれぞれが別れを惜しんでいるのが見える。
私はその中から一人弾き飛ばされた所謂“ぼっち”である。
そんな私は屋上にいる。人もいないから安心できるのだ。
考えてみれば私は、目立たないようにと思って過ごしていたのだからぼっちになるのも、当然といえば当然だ。
1・2年はひっそりとクラスの隅っこで暮らしていた。
それなのに、ある一人の男の子がそれを妨害し(本人にはそんな気は無さそうだが私にとっては立派な妨害だったのでそう言わせていただく)、私の世界を180°変えたのである。
その男の子というのは、あの有名な、「及川徹」。彼と私の間にはとても微妙な位置関係が作られている。
友達以上、これは断言できる。だけど、恋人未満とハッキリ言うことはできない。
これまで片手で数えられる程度だが及川君とキスもしたことがある。
言っておくが決して私はビッチではない。ただの興味本位、しかも及川君の。私は無理矢理やられたのだ。
そしておかしなことに、私はその及川君に惚れてしまっている。何という体たらく。以前の私からはとても想像できない。
しかし告白とか、そういう類のことはしないと決めている。そもそも告白したって叶わないだろうし。
及川君はモテるからだと思うけどとてもチャラい。きっと他の女の子にも平気な顔でキスすると思うから。
だから私のこの気持ちは、今から大事に大事に心の奥底にしまうのだ。
誰にも見つからないように。
いつか笑い話として本人に言えるくらいになるまで、ずっと。
嗚呼、馬鹿みたい。なんて思ってみてももう遅いんだ。つい自分への嘲笑が浮かんでしまう。
そんな自虐的なときに、屋上のドアノブがガチャリと開く音がした。

「なまえちゃん!やっと見つけた」
「………及川君、」

屋上の訪問者は及川君だった。一体何をしに来たのだろうか。
率直なその思いを及川君にぶつけてみれば彼はふふふ、と笑った。

「ちょっと、なまえちゃんに相談したいことがあってサ」

何でこの人は、そんなことを軽々と言ってのけるのだ。しまったたずの気持ちが湧き上がってくるじゃないか。
しかし私の心の葛藤を無視した口は勝手に言葉を紡いでいた。

「私でよければ、いいよ」

この言葉を皮切りに、及川君はポツリポツリと話し出した。
“俺、本当に好きな子がいるんだ。今までの誰よりも好きになっちゃた子が。”そうなのか、知らなかった。
でも、その子は及川君の気持ちに気付いてくれることもなく、とうとう今日卒業してしまったのだとか。
そうなると同級生なのだ、相手は。___待って、それなら。

「その子の所に行って、想いを伝えたほうがいいんじゃないの?」
「うん、だからさ、来ちゃった」
「え、」

どういうこと?来たということはもう相手はここにいるってことだよね。私以外にここに誰かいたっけ?
私が半分パニックに陥っているとそれが面白かったのか及川君がまた笑った。

「ホント、鈍感だネ。その好きな子ってなまえちゃんのことなんだケド」

あのさ、聞いてほしいんだ。及川君がいつもと違う、真剣な表情と声を発したので思わず私も緊張した。

「俺の人生、永遠にはんぶんなまえちゃんにあげる。だからその分なくなっちゃった永遠のはんぶんを、」

『なまえちゃんからもらえないかな?』
全て聞き終わり、意味を充分理解したあと私はふふっと笑ってしまった。
及川君がそれを見て不満そうな顔をするから慌てて弁解を試みた。

「違うの、その。……そういうのはまず、お付き合いをしてからじゃないのかな、って」

そう告げると及川君はポカンとマヌケな顔をした。イケメン顔が台無しである。
名前を呼びながら彼の顔の前で手を振るとハッと我に返った。

「だったら。俺と付き合ってください、なまえちゃん」

及川君の言葉に私は満面の笑みを作って。

「あと5年待ってくれたら、永遠のはんぶんを及川君にあげる」

及川君は嬉しそうに笑って待っててよね、と言って私を抱き締めた。
高校の卒業式から5年後に私の苗字が『みょうじ』から『及川』に変わったのは別の話。


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