俺には二人の幼馴染がいる。
一人は高校生になった今でも変わらず一緒にバレーボールをしている岩ちゃん。
もう一人は俺が知る中で今でも一番可愛いと迷いなく言える大切な女の子。そんな大切な子に小学生の頃から片思いをしていてきっと中学校に上がったら、高校に上がったら、と告白を引き伸ばしにしているうちにこんな近くて遠いただの幼馴染という関係が確立してしまった。そんな彼女の噂を今日たまたま、偶然、聞いてしまった。

「彼氏出来たって本当なのかな〜…」
「さぁな」
「俺どーすればいいんだろう…」
「さぁーな」
「ちょっと岩ちゃん?!真面目に相談してるんだけど」
「知るかよ。俺は別に誰かさんみたくなまえに女々しい感情は抱いてねぇかんな」
「はぁ…だよねぇ…」
「つーかあいつが彼氏出来たら真っ先に俺らに連絡してくんだろ」
「多分その場合は岩ちゃんに連絡が行って俺には来ないパターンだよ」

自分で言っておいて自分でいじけて見せると岩ちゃんは深くため息をついてうぜぇ、と声を漏らした。昔から何かとなまえが相談をするとしたら岩ちゃんと決まっていた。その理由が俺にはよく分からないけれど幼馴染としての格の中で俺は岩ちゃんよりも格下なのかもしれない。

「信用に値しない存在なのかなぁ…」
「まぁてめぇは昔から女に囲まれてキャーキャー言ってたからな。信用なくして当然だろ」
「キャーキャー言ってないよ?!言われてたんだよ?!」

顔を上げて名誉を挽回すればまたすぐに机に伏せた。なんだかんだ文句を言いながらも俺の愚痴を聞いてくれる辺りは流石幼馴染だと思う。

「つーかあいつに直接聞けばいいだろ。お前ら仲悪くはないんだから」
「…うーん」

確かに彼の言う通りだ。
仲は決して悪くない。彼女の家にしょっちゅう行くし彼女もしょっちゅう来る。ただそれは幼馴染としてであってその一線を越えたことはない。理由は…越えたとして拒まれることが怖いからだ。彼女にフられて俺達が幼馴染に戻れる可能性はゼロに等しい。それくらいは俺でも分かっているのだ。

「おー、さっそく来たぞ。チャンスだな…俺は先帰っから」
「なんで!!一緒にいてよ!!!」
「きめぇんだよクソ川」
「酷いっ?!」

軽い足音が聞こえて岩ちゃんが立ち上がる。なんとなく彼女であろうという察しがつくのは長年一緒にいたからなんだろうか。俺達の会話にキョトンとした顔で教室を覗き込んだなまえに心臓がうるさく音を立てた。

「あれ、一も徹もどうしたの?あ…もしかしてホモってた?」
「ちげーよ馬鹿。じゃあな」
「バイバイ」
「え、一は一緒に帰らないの?」
「おー、急ぐから」
「へぇ?バイバイ」

特に干渉もせず、それでも気心が知れている。そんな近くて遠い間柄が今の俺達だ。

「で、徹?一緒に帰ろう?」
「ん、勿論」

顔を上げて笑って見せればなまえは眉を顰めた。

「…何その嘘笑いウザっ」
「酷いなぁ…嘘笑いなんかじゃないよ」
「何年一緒にいると思ってるの。バレバレだから。どうかしたの?」

話したくないならいいけどという彼女の言葉にまた一線を感じた。

「…なまえ、さ」
「うん?」
「彼氏…出来たの?」
「え…なんで?」

噂で聞いたから、と答えれば彼女は気まずそうに目をそらした。

「彼氏ではないよ。告白はされたけど返事はしてない。」
「…どうして?」
「うーん…迷ってるから」
「何に」
「え?だから彼と付き合うかどうかに」
「なんで?」
「…徹?」

ハッと気づくとなまえに不審な目で見られていた。質問をしすぎてしまったと自覚するには遅過ぎてため息が漏れる。

「何よ…本当に今日どうしちゃったの?私の恋愛なんてどうだっていいでしょ?」
「どうだってよくないよ」
「だって徹には関係ないじゃない」
「関係なくなんてない!」

ずっと好きだった。
笑う表情も拗ねた顔も滅多に見せない泣き顔も。
すごく嬉しかった。
いつもは言わない泣き言を打ち明けてくれた時とか皆には教えない話を俺にしてくれた時。
同時に切なくなった。
俺はいつも幼馴染のままなんじゃないか、彼女はそのうち知らない誰かと恋愛をしてしまうんじゃないか、と。
それなら…
そんなことになるのなら…

「徹?本当にどうし…っ!!」
「…関係なくなんてないから」

彼女を力いっぱい抱きしめて俺はようやく一線を越えた。顔を彼女の首筋にうずめて、幼馴染としてじゃなく、男としてなまえを抱きしめているんだと教えるために彼女の首筋にキスを落とした。

「もう、幼馴染としてじゃなくて…男として見てよ」
「…と…おる…」

かろうじて関係のないこと
(でもそれもこれからは大事な事なんだ)


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