怪我してる

「おいおい次元、大丈夫かよ」

ルパンのそんな声を聞き、不二子はチラッと今帰ってきた男を見る。男は左腕から血をぼたぼたと流していた。
彼女はそれを見ても何も言わなかった。

しばらくして左腕に包帯を巻いた次元が現れる。そして彼女の座る反対側のソファーに腰掛けた。
ルパンは隣の部屋から出てきて不二子に言った。

「ちょっと俺出かけるから次元頼むわ」
「え?ちょっと…」
「すぐ戻るからよ」

「じゃあよろしく!」と手を振って彼は出ていった。「これで他の女の所行ってたら許さない」と思いながら、不二子は反対側に座る次元を見た。

「…珍しいわね。あなたがそんな大怪我して帰ってくるなんて」
「…考え事してただけだ」

そう答える彼は明らかに機嫌の悪そうな顔と声だ。子供みたいな彼に不二子は一つため息を吐いた。

「銃撃戦で考え事なんて…あんた馬鹿ね」
「ンな事ァ分かってる。うるせーから黙ってろ」

苛々している彼がそう言うと彼女はスッと立ち上がってコーヒーを煎れにキッチンへ向かった。すると次元が一言「俺も」と言う。
不貞腐れた次元をチラッと見て、仕方なく彼のも煎れてやる。

コーヒーをマグカップ二つにいれ、一つは自分の所に、もう一つを次元の前に置いた。するとまた次元が自分を呼ぶ。

「おい」
「何?」
「ちょっと来い」
「……」

この男はこう呼んで、たまに悪戯をする時がある。警戒するが、彼は今左腕を怪我しているから大丈夫だと判断する。何より機嫌が悪いのだ、そんな事はしないだろう。

不二子は次元の前に立つ。すると突然、グイッと腰を掴まれ座る彼に跨がるような格好になってしまう。

「ちょっと…!」
「左腕ケガしてるからって油断したな?残念だな、俺の利き腕は右だ」

意地の悪そうな顔をして笑う。機嫌が悪いのだと少し遠慮した自分が馬鹿馬鹿しくなって、不二子はぷいっと顔を逸らす。

「拗ねんなよ」
「拗ねてない」
「じゃあこっち向けよ」
「嫌」
「おい…」

ゆっくりとその手は彼女の頬に添えられる。ごつごつした不器用な手は右側にしか当てられない。
その手を上から押さえ、目を閉じる。顔を近付けようとする次元を、しかし彼女は拒んだ。

「心配掛けたからダメ」
「心配したのかよ」
「したからダメなの」
「俺はシたいからする」

そう言って次元は無理矢理に唇を重ねる。舌まで入れた深い口付けはいつも彼が焦りを感じている時のやり方。不二子はただ、されるがままになってやった。
そっと唇を離すと次元は怪訝そうに彼女を見る。

「何で抵抗しねーんだよ」

言われて彼女はフッと笑う。

「怪我人には特別よ」

グイッと彼のネクタイを引き寄せ、今度は不二子が唇を重ねる。次元は驚いたように目を少しだけ見開くが、にやりと笑うと彼女の腰を抱き寄せた。


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