忘れないで

※死ネタにつき注意



彼女らしく無い言葉を最後に聞いた。

『私が死んだら…広い草原の真ん中に、小さなブローチを置いて、墓をたてて』

彼女なら、煌びやかな宝石に囲まれた中に純金の墓石でもたてて、たくさんの札束で埋もれさせてくれとでも言うのかと思ってた。
いつもそんなわがままを聞いていたから、俺もお宝を集めるのは得意になったが、まさか最後にそう言われるとは思わず、つい彼女に聞き返してしまった。

「え、何で?」
「何よ」
「いや…なんか、不二子ちゃんらしくないなぁと…」
「どうして?」
「俺はもっと…豪華絢爛じゃなきゃ嫌!!なぁんて言うのかと思ってさ」
「死ぬときくらい、可愛い女の子のように、質素な所で眠っていたいのよ」
「ふぅーん…」

そう言う彼女は、まるで夢見る少女のようでとてもしおらしくて、その時だけなんだか照れ臭かった。



でも、彼女の最期はあまりにも悲惨で。

いつかは来ると思っていた。だが心の片隅で彼女は俺の目の前から決して消えない存在なのだと信じていたのだ。

彼女の死を知ったのは、テレビ越しだった。何気なくテレビを付けたらやっていた、指名手配中の日本人女性の謎の変死体。
ホテルで発見されたその死体は激しく殴打された痕はなく、しかし風船が内側から割れたように部屋の所々に肉片が飛び散っていたという。

それを知った時、なんでか俺は涙を流しはしなかった。
二人の相棒に「現場に行かないのか?!」と言われたが、俺の足が向かうことはなかった。


彼女に言われた通り、広い草原の真ん中に小さな墓石をたて、小さな宝石店で買ったブローチをそっと置いた。

そして傍らに忘れな草の花を置いた。
忘れな草、勿忘草とも書くその花言葉は『私を忘れないで』、そして『真心の愛』。


俺を忘れないで。そして、俺は君を忘れない。
騙されても騙されても愛し続けた男と、裏切っても裏切っても愛し続けた女、臆病な二人にぴったりな花だよ。
俺は臆病だからずっと君以外の女にこれから先、惹かれることはないだろう。君という女しか知らない、知りたくないからだ。
君が死んだホテルに行かなかったのも、綺麗な君の悲惨な姿を目の当たりにするのが怖かったから。
でもきっと君も、美しくない自分を俺に見せたくないと思っただろう?願っただろう?


俺は分かる。君の考えている事全て。
最期に残した、あの言葉以外は。

だからお願い、俺を忘れないで。俺も君を忘れないから。

花を置いたら涙が溢れた。
緑の草に雫がぽたり、と零れる。


泣く男は嫌いだって?
何言うんだよ。
君だって今、雲の上で泣いてるんだろう?

俺はそんな君も愛しています。


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