裏切りの女

目の前に居るのは、相棒をいつも騙し、裏切る憎い女。不覚にも俺はこいつに惚れているのかもしれない。
もしも、この女が裏切りもせず、いつも俺らに付いてくる純情な女だとする。そしたら俺はイチコロかもしれない。プロポーションは悪くねぇし、顔だって綺麗な顔立ちをしてると思う。ルパンに言われなくとも、この女の美しさは俺も心の中では認めているつもりだ。

「……」

反対側に座る女を見る。読書をするその姿は細い華奢な足を優雅に組んで、いつものように胸元を強調した服を身に纏っている。普通に見れば艶やか。だが本性を知っている俺からしたら怪しい風景。何食わぬ顔でこの女がこうして此処に居ること自体疑り深い。

「……」
「…何よ」
「いや…」

俺の視線に気付いてか、女が俺の方に目を向ける。考え事をしていた俺は空返事を返す。女はそのまま再び本に目線を戻した。

「……」
「……」
「……」
「…っ!」

だが、またすぐに俺の方を見た。

「もう、いい加減にしてよ!何なのよ人のことじーっと見て!!」
「気にすんな」
「気にするわよバカ!集中して読書も出来ないじゃない!」
「じゃあしなければいい」

本なんて見ないで、俺を見てればいい。

頭の中に浮かんだ言葉はこっ恥ずかしい言葉で、自分で理解した途端に恥ずかしくなってきた。
こんな女相手に何言ってんだ俺は。この女に見てもらおうなんてどうかしてる。
だが前言撤回は叶わず、言われた方も目を見開いて驚いていた。

「わ、忘れろ!今の言葉は!」
「…ルパンにも言われたことないわよ、そんな言葉」
「だから忘れろって…」
「今だけ、相手してあげてもいいわよ?」
「…あ?」

相手をする、その言葉に何故か俺は反応してつい聞き返してしまった。対する向こうは得意気な、自信か何かに満ち溢れたような顔で俺を見下すように見ていた。

「今だけ、あなたの好きなようにされてあげる。だから好きにしなさいな」

指で招いているのと同じ効果を生み出すその甘い声で女は俺を誘った。
乗るな。騙されたが後、あいつに何されるか分かったモンじゃねぇぞ。
頭では分かっていたが体が正直に動いてしまい、気付けば女をソファの上に押し倒していた。

「…欲求不満?」
「うるせぇ」
「いつもならつれなくするのに、今日はどうしたの?」
「男の性には逆らえねぇよ」
「ふふ、正直な男は好きよ?」
「じゃ、そのまま好きになってもらおうか」

そのまま俺に溺れ、俺のものになればいい。そして二度と俺から離れないように、その男を裏切る悪い癖も直してやる。

だけど俺は考えた。
この女には、男を裏切るからこその魅力というのを感じるのだと。こいつが純情になったら、それはそれでつまらないものなのだと。

「…いい女、か」

相棒の口癖が俺の口からつい洩れた。


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