嘲笑え、女神よ
お前が死んだら、相棒が悲しむだろうから、
代わりに俺が地獄へ行ってきてやるよ。
「なに、それ」
俺の手元に持っている物を指差し、不二子が聞いてきた。
それは、昔の女から貰った、小さなペンダントだった。弾丸の付いたそれは、「次元らしくていいわね」と柔らかく笑った、あいつがくれた物だ。
「昔の女から預かったやつだ」
「そう。返す宛てがあるのね」
「ああ。こいつは…俺が死んだ時、渡すものさ」
女を守ろうと、火の中へ突っ込んでいって。見つけたのは、既に焼死体となった彼女。
抱き上げようにも既に灰になっていたそれを、俺は少しだけ掬い取った。
そして、このフルメタルジャケット弾へと詰めたんだ。
「でも、あなたのマグナムじゃ撃てないわね」
俺のS&W M19を見つめ、不二子が呟く。
「ああ。撃てねぇよ」
女の灰が入った弾丸を、自分の胸に埋め込み死ぬのが俺の理想だ。
相棒でも吐かないロマンチックすぎる戯言は、鼻で笑われた。
「馬鹿馬鹿しい。その弾で死んでどうするのよ?」
「そうすりゃあ、天国に居るあいつに見せつけられるだろ?お前の灰と一緒に、上がってきたんだってよ」
「そんな事されて喜ぶ女なんて、どうかしてるわ」
分かってる。そんな事されて喜ぶ女なんて居ない。
俺は本当に、女心の分からない、駄目な男さ。
そう自嘲していると、突然不二子が俺のネクタイを引っ張った。
「普通の女は、憎い男は自分で撃ち殺すのが良いのよ」
「な…」
「愛して、愛して、その果てで裏切られた男を自分が撃った弾で死ぬのを見届けるのが、幸せなのよ」
愛して、愛して、その果てで裏切る。
まさに、お前ェじゃねぇか。
「だからね、次元。私に撃ち殺されたくなかったら、裏切らないでね?」
ニコッと残忍な笑みを浮かべた。
「ふざけんな。裏切るのはいつもお前さんだ。お前さんこそ、俺に撃ち殺されねーように気をつけるこったな」
だが、裏切った時点で殺してしまうなら、俺はこいつをもう二十回以上は殺している。
相棒を裏切り、俺を裏切り、侍を裏切るこの女は、何度も処刑されるべき人間だ。
それを生かしているのは。
「お前が大嫌いだから、撃ち殺す価値もねーって思ってるだけだ」
「まぁ、ひどい。ルパンなんて私と一緒に死んでくれるって言ってくれたのに」
「いつの話してんだ」
お前が死ぬと相棒が悲しむから、俺はそ知らぬ顔をして、お前の死を見届けるんだ。
そう呟けば、不二子は一言「馬鹿」とだけ呟いた。