いっそこのまま騙していてくれ
昔、本格的な殺し屋業に手を染めていた時その女に会った。女は綺麗で、艶やかで、大人びていた。俺もあの時はこれは一目惚れをしたのだと自覚していた。
だけど、女は金に貪欲で性悪で、男を簡単に騙し、男とは自分の玩具だというかのように男達を騙していった。
今思えば女に懲りたのはコイツのせいだ。
と次元は目の前に居る不二子を見ながら思っていた。
ルパンが留守だと知るや否やソファにねそべり目を閉じた女はやはり見惚れるほどに美しい。そしてそれがまた腹立たしい。こんな女に何見惚れてんだ。バカか俺は。
何時の日か不二子に直接言ったことがある。
『おめーは黙ってりゃそれなりにイイ女なのにな』
全くその通りだと納得した。目の前の女は目を閉じてすやすやと眠っている。まるで白雪姫か眠れる森の美女のように、その唇に愛する者のそれが重なる時を今か今かと待つ姫のようにぐっすり眠っている。
「……」
その姿に煽られてか、欲情してか、悪戯心が芽生えてか、次元はのそりとソファから腰を上げると女の顔を覗き込む。閉じられた瞼。この至近距離で目を開けないのなら、と次元は顔を近付けていく。
あともう少し。
あとほんの少しというところで。
不二子はパチッと目を覚まし、次元は頬に平手打ちを食らった。
「何してんのよ!」
「……チッ」
「舌打ちしない!」
何だよ、たかがキスでぎゃあぎゃあと。今まで何度でもしてきただろーが。
目を覚ました途端に感じるこの残念な感じは何だろうか。
気づきたくなかった。
この女が美人だなんて。
騙されていたかった。
彼女の女神のような、その魅力に。
落胆した、まるで地獄に堕ちたように。
眠り姫なんて起こすもんじゃねェな。