雨に消えて

激しく雨の降る夜、不二子に呼び出されて彼女を迎えに行った。

『傘がないの。迎えに来てくれる?』
「もちろん」

これじゃ犬か召使だな。まぁ恋は盲目っていうしさ。仕方ないんだよ、俺と不二子だもん。

傘を一本手にして車に向かう。「迎えに行ってくる」と一言言えば「あぁ」とソファから短い返事が返ってくる。最近次元は何も言わない。前まで「あの女とは縁を切れ!」とか「また女か」なんてつれねぇ事言うけど、最近はあまり口出ししてこない。ま、次元も色々忙しいんだろう。

車を走らせ、言われた場所へ向かった。場所に着くと一人の女が花屋の前で雨宿りをしていた。

「お待たせ」

一言声を掛けるとこっちを向いて優しく笑ってみせた。花屋の所まで行くと彼女は上目遣いに俺を見上げた。今日も相変わらず綺麗だ。

「ありがとう」
「どういたしまして」

そっと傘を差し向ける。俺の横に入ってきた時、彼女の髪が少し濡れているのに気付いた。

「ちょっと濡れちゃった?」
「えぇ、急に降りだしてきたものだから」
「じゃあ早く帰らないと。風邪引いちまう」

見れば肩も少し震えていた。最近雨続きだっつうのに、何でタンクトップにカーディガンなんて寒そうな格好して出掛けんのよ、不二子ってば。
さり気なく肩を抱けば、俺の肩に頭を乗せた。

「寒い…」
「そんな格好で出掛けるからよ」
「今日は晴れると思ったの」
「ハイハイ」
「…バカだと思ってるんでしょ」
「そこも可愛いとも思ってる」
「調子がいいんだから」
「んふふ」

不二子の体温が低い気がした。急いで車へ戻ろうと思ったら、グイッとネクタイを掴まれ後ろに引っ張られた。

「ぐえっ!」
「ねぇルパン」
「な、何?」

真剣な目。強い口調で俺の名を呼んだ不二子は傘から出てしまい雨に濡れてしまっている。

「おい不二…」
「私のこと、好き?」
「へ?」
「私のこと本当に好き?」
「……」
「…いいのよ、あなたにも女なんてもの、他にも幾らでも居るんでしょ?」
「……」
「無理して私に愛を語らなくてもいいのよ」
「好きじゃない」
「……そう」
「愛してるんだ」
「…バカ」

俺がこう答えるのが分かっていたように不二子は溜息混じりに笑った。俺は本当のこと言っただけさ。

「じゃあ、他の女の子は好きなの?」
「うん」
「で、私は?」
「愛してんの」
「…そんなんだから女の子に騙されるのよ」
「一番騙されてんのは不二子ちゃんだけど」
「何か言った?」
「いいえ」

二コッと笑みを浮かべた不二子に俺も冷や汗掻きながら笑顔でお返し。

でもな、お前は俺がどれだけお前を思ってるのかなんて分かっちゃいないんだ。

ザァッ!!

一際雨の降り方が酷くなる。慌てて俺の傘の中に駆け込んできた不二子は空を見上げるようにして呟く。

「やだ、早く帰りましょうよ」
「…好きだよ不二子」

お前しか見えないくらいに。

「え?」
「そうだねって言ったの」

雨音に掻き消された言葉は、今俺が彼女に一番伝えたい言葉。


だけど彼女はそれも知らずに雨に濡れた髪を拭いていた。


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