お前のために死んでやらない

撃ち抜かれた右腕は、血をダラダラと流すばかりで動いてくれそうにない。
止血の為に巻いた白布も、既に真っ赤に染まっている。

「ざまあねぇな、次元!」

笑いながら、チェスターはウィルディ・ピストルに弾を詰めた。

「よりによってそんな銃を愛用するとはな」
「中々抱き甲斐のある、いい奴だぜ」
「そうかよ。しかし俺の趣味じゃねぇな」

次元は慣れぬ手つきで、左手を使い銃弾を装填する。
コツ、コツ、と敵の足音がゆっくりと近づいてくる。

「今のうちに神様に命乞いでもしとけよ」
「悪いな。俺の命は、とうの昔に預けちまったんだ」
「お前が命を?はははっ!幸運の女神というやつにか?とことん笑かしてくれるぜ!」

下品に大口を開け笑い続けるチェスター。しかし、次元は「いや」と左手にマグナムを握った。

「思い出すと腹の立つ、猿顔の男さ!」

パァンッ。次元の肩越しに風が銃弾を運んでいった。物陰に隠れながら次元も反撃をと銃を撃つも弾は全く敵に当たらない。
再び物陰に隠れた次元に、チェスターは口を開いた。

「次元。昔は裏じゃ名の知れたお前も、ルパンがいるとその名も霞んじまうなぁ!」

チェスターは浮かれている。次元の利き腕を使えなくした今、勝機は完全にチェスターの手の平にあると思っているのだろう。

「お前に言われたかねぇよ」

敵の愛銃、ウィルディ・ピストルを睨みながら、次元が言った。

「それにな、相棒っつうのは地味なほうが気楽にやれるもんさ」

赤いジャケットの横に黒が並べば、常にあの男の影になれる。
太陽と月とはよく言ったものだ、と次元は口角を上げた。

ガチャ。
次元の頭に、ピストルの銃口が向けられた。

「終わりだぜ、次元」

引き金に指をかけ、ゆっくりとそれを手前に引いていく。その瞬間まで笑みを絶やさぬ次元に、チェスターは不気味さを感じ一瞬怯んだ。
チェスターの指に僅かに引き遅れた引き金を見逃さず、彼の発砲と共に次元は体を屈ませ、折った膝の反動でチェスターの胴体に体当たりを食らわせた。

衝動に耐え兼ね尻餅をついた相手は銃を手放してしまった。慌てて拾いに行こうと、臀部の痛みに閉じていた瞼を上げた時には、目の前は黒一色だった。

「昔言ったはずだ。お前は油断が多いと」

マグナムの弾倉が、最後の一発の入るそれに切り替わった。グッ、とその銃口がチェスターの胸にぴったりと押し当てられる。

「あばよ、チェスター。地獄に落ちても、油断するなよ」

次元の、チェスターへ送る最後の教授は、皮肉にも彼の胸を貫いていった。

「すまなかったな、次元」

チェスターが地に伏すと、ルパンは次元を抱え上げた。そしてその第一声に、次元は「別に」と素っ気なく答える。


「俺はただ奴と決着をつけたかっただけだ」
「死ぬ覚悟だったくせによ」

真っ赤な布が巻かれた右腕を盗み見ながらルパンが言うが、「馬鹿言うな」と次元は左手で自身の帽子を深く被り直した。

「お前のために死ぬなんざ真っ平御免だよ」

肩を貸すルパンに、次元はそう言って笑ってやった。


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