月が綺麗ですね。 | ナノ

厭とかぶりを縦にふる。




 あわててギュッと胸元の浮いた布を抑えるが、殺生丸に襟を捕まれて引っ張られる。

「うわっ。」

 そのまま岩場にうつ伏せにされ、弛んだ襟を引き伸ばされる。首回りが外気に触れて寒気がした。

 ツウ、と殺生丸の細い指先がうなじから肩にかけてなぞるのを感じ、ぞくぞくとした悪寒にも電気にもにた痺れが背筋を走る。

「やっ・・・」

「傷は、ないな。」

「え?」

 そういやそんな主旨でしたっけ。と蓮子が顔だけでなんとか振り向き見上げる。殺生丸の顔は真剣だった。そして、蓮子はハッとする。彼が触れてるのは以前、野盗に刀で貫かれたところだ。結局、蓮子は気絶して、目が覚めたときには綺麗さっぱり治っていたが、刀で刺され、毒で焼かれたそこはとても醜い状態だったに違いない。

「・・・・・・」

 痛ましげに見下ろす殺生丸を、蓮子はじっと見上げる。

「もう、傷はないよ・・・」

「・・・あぁ、そうだな。」

 蓮子の言葉に頷きながらも、殺生丸の表情は浮かないままだった。
 それをみると、蓮子はいつも抵抗する意を殺がれてしまう。





 ‡ 陸拾玖 ‡





 女の肌はやわらかい。

 この娘に限らず、人間の、特に若いおなごの肌はそういうものらしい。生憎と、殺生丸は人間の女の肌は蓮子しか知らないので定かではないが、彼女の傷を見せた薬老毒仙がそう言っていた。

 だから、些細な傷でも痕が残ってしまうのだと。

 蓮子の肌は玉のように染みひとつなく、触れれば掌に吸い付くような滑らかさだ。

 戦いに身を置けば傷が出来てしまうのは仕方がないことではあるが、殺生丸は蓮子の肌の感触を気に入っていた。だから、この女が傷付くのは本意ではない。

 女の乳白色の肌は月明かりに照らされてぼんやりと光っているようだった。光に吸い寄せられる羽虫のように、刀傷があった場所へ殺生丸は口付け、そこを吸い上げる。

「ひあっ!?」

 途端に蓮子の身体が陸に打ち上げられた魚のように跳ねる。白魚のような肌が赤い花弁を散らしたように色づいたことに満足し、そこに更に舌を這わせる。気のせいか、甘い花のような匂いが鼻を擽る。

「やっ・・・、せな、かは・・・」

 そういえばいつだったか背中は弱いのだといっていたことを思い出す。だが、殺生丸には今更蓮子が恥じらいを覚えようが、そこが弱点だろうが関係なかった。赤い花弁が増えると、花のような匂いが濃くなった気がする。

「ぁ、や・・・だあっ。」

 くすぐったいのだろう、蓮子が逃げようと身を捩る。目の前の岩にしがみついた際に擦ったらしく、女の皮膚が裂ける匂いがして眉をひそめる。

「あっ。」

 女の首に手を回し、身体を後ろへ引き少し浮かせてやる。顔を覗き込めば、頬に小さい擦り傷ができて少し赤くなっていた。指で捲れた皮膚を塞ぐようになぞる。

「傷が・・・」

「え、あ。平気だよ、こんなかすり傷・・・」

 また殺生丸の顔が曇ったことに、蓮子はとっさにそう言っていた。

「つばつけときゃなおるよ。」

「そうか。」

 ならば、と殺生丸が蓮子の傷をペロリと舐める。

「!んなっ!はあ!?」

「つばをつければなおるのだろう?」

 何か違うか。と、また暴れ始めた蓮子を押さえつけて殺生丸がいう。やはり、背中を舐められるのは『くすぐったいから』嫌だといい、顔を舐められるのは『恥ずかしいから』嫌だというその判断基準は理解できない。

「お前のはいらん!」

 真っ赤になって凄む蓮子に殺生丸は、くつ、と笑う。

 恥じらうことをやっと覚えたようだが、胸の前で腕を交差しているだけの蓮子は俎板の鯉のようで、まるで警戒心がない。むしろ喰ってくれと煽るばかりのそれに、殺生丸は更に笑みを浮かべる。

 最初こそいつも通り『触れたいから触れる』だけのつもりだったのだが、蓮子の拙い抵抗が寧ろ呼び水となり、火付けになった。

「傷をつけたものが喰って良いのだろう?」

 長い爪で引き裂かぬよう頬の傷をなぞりながら言えば、ぽかん、と口を開けて呆気にとられる女の気が漫ろな内に掴んでいた首を後ろに引き、仰向けに寝転がす。



 ―――飢えた獣の前で、善性を説くことほど愚かなことはない。






さーて、いったんCMはいりまーす!長くなりそうなので切りました。
我が家の殺生丸様は獣寄りなので、ムラっとしたら即触ります。ほんとサイテーですよね。←
防衛本能が強いので怪我をしたらした分に執着心が強くなります。お気に入りの玩具をとろうとしたら頑なに離さなくなっちゃう犬みたいな。
次回、○○死す(笑)デュエルスタンバイ!(謎予告)
(22/01/21)


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