一番大切で大好きなひと(あ。そうだ・・・) 蓮子はあることを思い付く。 「ねー、殺生丸ー・・・」 「なんだ。」 「・・・あ。」 呼び止められて振り返った殺生丸の側で見上げる蓮子の顔が急にボッと赤く染まる。 「ん?」 それに、側でつかえていた邪見も訝しげに思う。 「えっと、あの・・・」 かあ、と赤くなりながら、同じ色のおさげの先をいじり出す。 ‡ 伍拾弐 ‡ まるで、乙女の告白のような光景に、邪見は冷や汗を流す。 (こ、これはもしや・・・!) 「あ、あの・・・ね。あたし、その・・・」 「・・・なんだ。」 (わ、わしはどうすべきなの?) 急に桃色な空気になり、邪見はあたふたと己の身の置き場に困る。なんせ今、まさに殺生丸と蓮子の間にいるのだ。まるで空気のように無視されているが。 意を決したように蓮子が拳を握り、顔を上げて叫んだ。 「会ってもらいたい人がいるの!」 「・・・・・・」 「・・・はあ?」 愛の告白かと思いきや肩透かしをくらい、邪見は主の代わりにすっとんきょうな声をあげる。 「殺生丸さまに、誰を会わせたいって? まさか、そやつ人間ではあるまいな・・・」 訝しげに聞けば、蓮子がまたモジモジと恥じらう。 「・・・人間、なんだけど・・・」 「んな!? き、きさまっ、殺生丸さまに人間を会わせるつもりか?」 「あたしも人間なんだけど・・・」 「それは・・・! そう、だけどな!?」 会わせるもなにも一緒にいる蓮子とりんが人間なのに、何を今更と思う。しかし、邪見にとってはこの二人と他の人間は違うのだ。何がと言われると困るのだが。 「人間だとなんでダメなの?」 「だから、そのぅ、人間とか・・・お前とりんは、そのーぅ・・・」 「黙れ邪見。」 「はい。殺生丸さま。」 邪見はぴしっと背筋を伸ばして、殺生丸の後ろに下がる。さすが主は自分の困っている姿を見かねて助け船を出してくださった。と邪見は前向きに考える。 「その会わせたい人間とはいったい誰だ?」 殺生丸が静かに聞くと、蓮子がまた顔を真っ赤にする。 「あのね、あたしの・・・大切な人。」 「・・・・・・・・・」 ぴしぃ。とその場の空気が凍る。 後ろ姿しか見えないが、主からどす黒いものが立ち込めている気がして、邪見はゆっくり後ずさる。 「蓮、蓮ちゃん・・・大切なひとって、その・・・どういう関係なの?」 (いいぞ、りん!) 固まってしまった殺生丸の代わりにりんがそーっと横から伺う。 「え? どういう? うーんと、あたしの恩人というか・・・」 (なるほど! 恩人だから大切と、それなら殺生丸さまのほうが・・・) 「この世界で一番大切で・・・すっごく大好きなひとだよ!」 ぴしゃーん。どんがらがっしゃーん。 どこからともなく、落雷の音が聞こえる。 「ほう、なるほど・・・」 「せ、殺生丸さま?」 ざわざわ、と毛皮を揺らめかせる殺生丸に、りんが恐る恐る伺う。邪見はとっくに逃げている。 「その人間とやら・・・お前にふさわしいかどうか、この殺生丸が見定めてくれるわ。」 「え、なに怒ってんの?」 無駄にヤル気を出している殺生丸に、蓮子がちょっとドン引きしている。 (殺生丸さま、それでは恋人を連れてきた娘の父親のようですぞ・・・) 邪見が遠巻きながら、内心ツッコミを入れる。 夢主の保護者気取りな殺生丸様。 (21/01/09) 前へ* 目次 #次へ ∴栞∴拍手 |