闘鬼神の使い手「悟心鬼とかいう鬼と、灰刃坊の邪気にまみれた剣。こんなもん、この世から消し去るしかあるまい。」 持ち主が死してもなお邪気を放ち続ける闘鬼神を前に、刀々斎と犬夜叉一行はその扱いに困っていた。 すると、天から雷が落ち、まるで本人の執念のように剣を掴んだままだった灰刃坊の腕が焼ききられる。 空を見上げれば、騎竜に雷を吐かせている殺生丸がフワ・・・と闘鬼神の前に降り立つ。 「な・・・殺生丸!」 何故ここに?という疑問が一同に過る。刀々斎は反射的に犬夜叉の影に隠れた。 しかし、犬夜叉だけは兄に自ら近寄った。 「蓮子は・・・どうした?」 犬夜叉の台詞に、殺生丸がピクリと反応する。 「あれから、蓮子もずっと一緒にいたんだろう?」 「・・・・・・」 犬夜叉のすがるような目を見て、殺生丸は顔を背けた。 「お前に話す義理はない・・・」 「やっぱり・・・ケガとか、したのか?」 「・・・ただの人間が風の傷を受けて、無事ですむわけがなかろう。」 怪我の具合が心配なのだろう。他の一行も、顔色が変わる。 「犬夜叉、きさまに蓮子をきにかける資格はない。」 蓮子が聞けばそんなことはない、と憤るかもしれないが、殺生丸は犬夜叉が蓮子を想う様を見るだけで不愉快だった。 「きさまのせいで、あやつがどれだけ苦しんだことか・・・!」 いつも冷静に、犬夜叉を追い詰める殺生丸が牙を剥いて怒りをあらわにしている様に驚く。 犬夜叉はそれだけ蓮子の容態が悪いのだと思い青ざめる。 「蓮子は・・・いま、どこに・・・」 「きさまの口から蓮子の名をきくだけで虫酸がはしる!」 兄の叱責に、犬夜叉がビクリと震える。 「お〜い。みんな〜」 がくっ。 しかし、緊張感漂う空気を、呑気な声がぶち壊す。 ‡ 参拾陸 ‡ 「は?」 遠くから、こちらに手を振りながら笑顔で駆けてくるのは、たったいま話題になっていた蓮子ではないか。 「はぁ〜、やっと追い付いた〜」 側までくると、膝を掴んで腰をくの字に曲げて、蓮子がひぃひぃと息を荒げる。 「きさま。ほんとうに足で追いかけてきたのか・・・」 殺生丸が呆れた眼差しを向ける。 「だって、あんたが・・・つれてって、くれない・・・から・・・」 息を落ち着かせると、蓮子は改めて、犬夜叉に笑顔を向けた。 「犬夜叉! あいたかった!」 そういっていつも通り抱きつこうとする蓮子を、犬夜叉は自分から引き寄せ抱き締める。 「ふえっ?」 犬夜叉に抱き締められるなんて初めてのことで、蓮子はとてもビックリする。 「・・・ばかやろう。」 自分の肩に顔を埋めた犬夜叉から漏れる声が震えていることに気付き、蓮子はちょっと申し訳なくなる。 腰に回された手はそのままに、蓮子は犬夜叉の頭をその大きな胸に抱えるように抱き締める。 「犬夜叉、心配かけてごめんね・・・」 「おれのせいで・・・、けがしたって・・・」 「やーねー。あれは勝手に飛び出したあたしが悪いんだから、犬夜叉はまったく悪くないのよ? なかなか知らせにこれなくて、ごめんね。何度も殺生丸に、犬夜叉のとこ連れてってって頼んだんだけどずっと無視されてさ〜。今回あたしのこと置いてきぼりにしようとするから、犬夜叉に会いに行くのかなーって思って追っかけてきたんだよね〜」 イイコイイコ。と蓮子は犬夜叉の頭を撫でる。 「殺生丸〜。まーた犬夜叉にいじわる言ったんでしょー? お兄ちゃん、大人げないよ〜」 蓮子がそういうと、殺生丸はムスッとした顔をしてスタスタと二人に近付くと、バキッと犬夜叉を殴り飛ばした。 「てめえ! なにしやがんでい!」 殺生丸は犬夜叉の文句は無視をして、蓮子をひょいっと持ち上げる。 太股に腕を通して持ち上げられたので殺生丸の顔が下に見える。肩に手を置けば、殺生丸のムスッとした顔が目の前に見える。 「きさま。病み上がりのくせに、無理をするな。」 「え゛っ。連れてってって言ったら「きたかったら勝手についてこい。」って言ったのあんたじゃん。」 「ほんとうに走ってくる奴があるか。」 「てことは何か、いじわるか。犬夜叉に会わせないよう、いじわるしたのか。」 「・・・・・・」 蓮子の鋭い指摘には返事をせず、阿吽の上に、ぽん、と座らされる。 大人しく座って休んでいろ。ということらしい。 闘鬼神「・・・・・・・・・」 忘れ去られた闘鬼神。タイトル詐欺(いつものこと)。 (20/10/10) 前へ* 目次 #次へ ∴栞∴拍手 |